友達のまま
だけど、その言葉だけは、この唇から絶対に零(こぼ)してはいけない。


だって、もしこの想いを翼に伝えてしまったら、私たちの関係は、一瞬で壊れてしまうから。


私の周りの友達は、みんな簡単に恋をして、簡単に付き合って、実はお互いに数ヶ月もしないうちに、あっけなく別れて他人になっていく。


昨日まで「世界で一番好き」なんて言い合っていた二人が、次の日には目も合わせない赤の他人になる瞬間を、私は何度も見てきた。


(普通の恋人同士になったら、いつか、終わりの日が来ちゃう……)


それが、私は何よりも怖かった。


翼の『特別』になって、いつか終わりを迎えてしまうくらいなら。


普通の恋のように退屈になって、色褪せて、最後には他人になってしまうくらいなら。


私は一生、翼の『一番の友達』という仮面を被ったまま、彼の隣に立てる特等席を守り抜きたかった。


友達のままでいれば、いつか終わる恋とは違う。


友達という名の、壊れない『永遠』を、手に入れることができるから。


「あーあ、アミが冷たいから、俺ちょっと傷ついたわ」


翼はそう言って、わざとらしく胸を押さえるジェスチャーをして、いつものように私の頭を大きな手でくしゃりと撫でた。


その手のひらの温もりが、あまりにも優しくて、愛おしいと感じて、私は泣き出しそうになるのを必死で堪える。


「……バカ翼。ほら、早く帰る支度して。置いてっちゃうよ」


「待てって。一緒に帰るに決まってんだろ」


カバンを肩にかけた翼が、私の先を歩き出す。


その広い背中を見つめながら、私は心の中で、誰にも聞こえない小さな声で、そっと呟いていた。


『翼、大好きだよ。誰よりも、愛してる。……だから、私たちは、ずっと最高の友達のままでいようね』


これが、世界の果てまで続く、嘘つきな私たちの、一番優しい物語(ロマン)の始まり。


お互いに、胸の奥に狂おしいほどの独占欲を隠し持っていることなんて、この時の私はまだ、気づきもしなかったんだ――。
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