友達のまま
第5話:雨上がりの嘘、世界の果てまで続くロマン
​遠くでゴロゴロと鳴り響いていた雷の音が、いつの間にか聞こえなくなっていた。


窓ガラスを激しく叩いていた雨の勢いが急に弱まり、雲の隙間から、まるで嘘みたいに綺麗な夕日の一筋が、駅の待合ロビーに差し込んでくる。


「……あ、雨、上がったみたいだね」


私は、翼の胸元に向けられていた視線をゆっくりと上げ、自販機と彼の体の狭い隙間から、外のロータリーへと目を向けた。


アスファルトが夕日を反射して、まるでオレンジ色の海みたいにキラキラと輝いている。


「あぁ……本当だな」


翼は小さく呟くと、私の頬のすぐ横についていた両手を、名残惜しそうにゆっくりと壁から離した。


2人の体を閉じ込めていた小さなシェルターが解かれ、冷たい外の空気が私たちの間に流れ込んでくる。


その瞬間、私の顔には、まるで最初から何もなかったかのような、いつもの「ただの友達」の笑顔が、自動的に貼り付けられていた。


「さ、翼! 雨も上がったし、路面が乾かないうちに早く帰ろ! お腹空いちゃった」


私はわざと明るい声をあげて、翼の前に立ちはだかり、カバンの紐をぎゅっと握りしめる。


さっきまでこの至近距離で、お互いに息が止まるほどの独占欲をぶつけ合っていたなんて、誰にも信じられないくらい、完璧な幼馴染のトーンで。


翼は一瞬だけ、眩しそうに私を見つめていたけれど、すぐにいつもの不敵な笑みを浮かべて、私の頭をポンと叩いた。


「お前、さっきまであんなに神妙な顔してたクセに、雨が上がったらこれかよ。現金な奴」


「うるさいなぁ! 早く歩かないと、本当に置いてっちゃうからね!」


駅を出ると、雨上がりの独特な土の匂いと、少し涼しくなった夏の風が私たちの頬を撫でていく。


隣を歩く翼の歩調は、いつも通り、私の短い歩幅に完璧に合わせてくれている。


(私たちは、これでいいんだ)
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