理系喪女の私がこんなにモテていいわけがない
 ――こんなこと、いつまで続ければいいんだろう。

 俺はホテル街を意味もなく歩き回りながら考える。これまでたくさんの女の子と交わってきたけれど、千早みたいな反応をする子はいなかった。俺はいつも中途半端に拗らせたまま、適当に楽しんでいるふりをして関係を終わらせてきた。

 ――この先一生、こんなにもやもやしたままなのか? 俺は行き先のわからない情動を持て余しながら夜のホテル街をぶらぶらする。

「――あれ?」

 薄暗い道端に見慣れた長身の長髪の男性の姿を発見した。あ、住良木皐月。同室の超エリート研究員だ。あの人の容姿は暗がりの中でもよく目立つ。長身に色白の肌と、茶色い長い髪が遠目にも映えている。

 なんか、誰かを小脇に抱えている。住良木さんもセックスしにきたんだろうか。あのハイスペックとルックスなら週末ごとに別の女性を抱いていたとしても誰にも文句は言われないだろう。

 ――住良木さんはどんな人とセックスするんだろう。

 俺は興味本位でその相手が知りたくなった。住良木さんたちにばれないようにそっと近づいて、電柱の影から二人の姿を確認する。

 ――え!? あれ、相川さんじゃないか?!

 住良木さんに抱えられて何とか歩いているへべれけの女性、おばちゃんみたいなコットンのジャケットにお洒落でも何でもないデニム、見慣れた適当カットのボブヘア。

 間違いない。博士課程二年の相川優香だ。――マジか、住良木皐月。

 ――そういえば、住良木さんは相川さんのことが好きだったな。俺はふらふらと歩く二人を眺めながら思い出す。

 ――あのハイスペックで男として完璧な住良木さんが、なんで冴えない相川さんを好きなんだろう。と、一人考え込むが、それは俺が千早を好きになった時と同じか、と妙に納得する。人を好きになるのに理由なんてないし、こういうのって自分では制御できない。

 ――あれ? でも、相川さんって俺のこと、好きだよな?

 自意識過剰にもとれるような不遜な認識だが、俺は相川さんの好意にずいぶん前から気が付いていた。でも、別にアプローチがあるわけではないし、俺の方も彼女には食指が全く動かなかった。

 ――相川さん、なんかダサいんだよな。顔立ちも悪くないし、スタイルもそこそこいいのに、外見を気にしていなさすぎるというかセンスがないというか。真面目でいい人なんだけど、いつも一生懸命で、ここぞという時にツキに見放されている姿は見ていて痛々しかった。奥手で純朴そうだし、ちょっと遊ぶには手を出しづらいタイプだ。

 住良木さんたちが無難なホテルの前で立ち止まる。住良木さんが迷っているみたいに相川さんとホテルを交互に見る。足元の怪しい相川さんが住良木さんの腕からこぼれ落ちるようにずるりとしゃがみこみかけて、それを住良木さんが慌てて支える。

 住良木さんは警戒するように周囲を確認すると、相川さんを抱えてホテルに入っていった。

 ――マジか! 俺は刮目して二人を見送る。
 ――やっちゃうのか! あの二人! 俺の鼓動がどくどくと脈打つ。
 ――え? てことはすごい状況にならないか? 俺の研究室。

 俺は胸の高鳴りを感じながら、一人、またホテル街の路地を歩き始める。

 きっと住良木さんのことだから、あの相川さんが相手でも、今夜、見事に抱きつぶすだろう。相川さんはどう思うのだろうか。住良木皐月に気持ちが移るのか、それとも俺のことを好きなままで――

 そこまで考えが及ぶと、どくり、と今までにない劣情が心臓を駆け巡った。

 ――マジか、最高のシチュエーションじゃねえか。

 俺の頭に住良木皐月に抱かれる相川さんの姿態が浮かぶ。――ヤベえ、俺のことを思いながら、あの美青年とヤッてんのかよ――。
 ぞくぞくと背筋を這うように情動が走る。さっきまでやっていたアイスのことを忘れて、二人の情事を繰り返し想像する。

 ――マジで最高すぎる。
 ――やりたい。住良木皐月の色に染められた相川さんとセックスがしたい。

 俺は頭の中が興奮状態のまま、見た目は冷静を装ってアーケードの方に抜けた。人混みにこの身を紛れ込ませ、アイデンティティを曖昧にする。

 ――相川さんは俺の要求を飲んでくれるだろうか。

 今後の展開をあれこれと考える。週明け、研究室に行くのが楽しみなってくる。

 ――あ、でも週明けから学会のポスター準備だったな。別室での作業になるか。まあいいか。その間に二人が完全に熟成してくれればよい。

 俺は帰りの電車に揺られながら、繁華街のネオンをきらきらした目で眺めた。

 もう、俺を支配していたやり場のない焦燥感は、どこにもなかった。
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