理系喪女の私がこんなにモテていいわけがない
第六章
「あ、こっちこっち」

 土曜の夜、繁華街のコンビニエンスストアの前で住良木さんが手を振っている。
 私も手をあげて、それに応える。

「面接どうだった? 樽見なんか言ってた?」

 黒のTシャツに白いワイドパンツ姿の住良木さんはコンビニで何か買い物したらしく手にポリ袋を提げている。そのまま二人合流して、夜の繁華街を歩き始める。

「住良木さんによろしくって言っていました。七月の週末に一度顔合わせしたいから空けといてくれ、だそうです」

 私はリクルートスーツ姿で、大きめのリュックを背負って住良木さんの隣を歩く。なんか変な格好だけれど、きっと泊まりだと思ったからこの荷物は仕方ない。

「そっか。よかったなあ、お前」

 住良木さんが私の保護者のような調子でつぶやく。紹介した側の住良木さんもやっと一安心したみたい。

 最終面接はほとんど形式だけの面接で他に志望者はおらず、私とCEOの樽見さんと帝海大・理化学研究室の准教授である宮田さんのみで行われた。最近、竣工されたばかりの新しい研究所内で最新鋭の設備に囲まれての面接はドキドキしっぱなしだったけど、二人とも終始、歓迎ムードでとても話しやすかった。入社を想定した業務内容の確認みたいなやり取りがほとんどだったから、もう多分私に決まっていたんだと思う。一応、合否は書面で、ってことになっているけど、あのムードだとほぼ内定で間違いないだろう。

「飯は?」
「軽く済ませてきました」

 土曜の夜の繁華街は混雑している。私たちはアーケードの人混みを抜けて、細い路地が入り組んだホテル街へと向かう。
 
 やっぱりなーと想定内の展開に、住良木さんの後に続いてラブホテルに入る。「これ。スイートルーム予約した!」と住良木さんが嬉しそうに入口の電光パネルの最上階の「スイート・パーティールーム」を指さす。はいはい、誕生日だもんね。これぐらいの我儘は許そう。

 相変わらず甘いムードとは無縁の状態で、私たちは研究所内にあった最新鋭の設備についてあれこれ二人で意見しながら部屋へ向かう。住良木さんと私の関係はやはり世間一般の男女のそれとは少し違う気がする。

 会話を続けたまま部屋に入る。薄暗い部屋をそのまま数歩進んでふと異変に気付く。

「――住良木さん、笠井君がいます」

 薄暗いスイートルームの中央の広いソファスペースで一人、壁際の大きなテレビ画面に向かってゲームをしている笠井君の見慣れた後姿がそこにあった。何? どういうこと?

「そうだな、笠井だな」

 ほい、ビール。と住良木さんがコンビニ袋を開けて私や笠井君にビールを手渡す。乾杯しようぜ、などと暢気にプルタブを開けている。

「聞いていません!!」

 私は荷物も置いていない状態で住良木さんに怒鳴り散らす。もしかして最初からその、三人で、ってつもりだった? ただ一緒に誕生日お祝いするだけ? て、いやいや、ここラブホだよね? お祝いだけだったらラブホじゃなくていいよね?

「言ってねえし。いいじゃん別に。笠井も俺の誕生日祝いたいって」

 なー笠井と言いながら、テレビ画面から目を離さない笠井君の頭を後ろからわしゃわしゃと撫でている。笠井君はゲームが佳境なのか、それを無視して画面に集中している。

「お祝いするだけですか」
「いや、もちろんセックスするけど。それも含めてお祝いって言うならお祝いか」
「でも、笠井君いますよね」
「うん、いる」

 だー、何なんだ、この男は! 頭がこんがらがってきた。3Pとかありえないし!!

「……僕のことは気にしないでください。いないものだと思って始めてください」

 笠井君はゲームに一区切りついたのかコントローラーをおいてビールを開けて一口飲む。「お誕生日おめでとうございます。住良木さん」と住良木さんに向かって缶を掲げる。

 私は笠井君のその冷静な様子にどこか拍子抜けして、小さくため息をついた。そうか。笠井君はすでに知っていたんだ。そのねじ曲がった性欲を満たすためにここにいるのね。住良木さんは気にするどころかノリノリみたいだし、最初から舞台は用意されていたのか。知らなかったのは私だけなんだね。なんか悔しい。

「――わかりましたよ。今回だけですからね。住良木さんの誕生日だから許します。でも二度としないですからね!」

 私はむっとしつつもようやく荷物を下ろし、ソファに腰掛けた。二人してグルになって私を騙るなんて信じられない。全くうちの研究室の男たちはどうかしている。
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