理系喪女の私がこんなにモテていいわけがない
番外編1-2
青いライトで照らし出された円形の水槽をふわふわと漂うクラゲの群れ。その幻想的に水中を漂う姿は宇宙空間を目的無く旅する未知の生物みたい。
私は笠井君の隣でそのクラゲたちに見とれていた。今、この瞬間、なんて幸せなんだろう。
日曜日の夜。今日は繁華街の商業ビル内にある都市型水族館に笠井君と二人でやってきた。不定期に開催される学割キャンペーンに感謝だ。
つまりデート。ものすごく純粋なデート。ああ、嬉しい。ちょっと伸びた黒い前髪をかき分けて、クラゲを学術的な目でじっと分析する眼鏡の笠井君の横顔を盗み見る。
「こんなに綺麗で毒があるなんて反則ですね」
クラゲを前に独特の感想を述べている。そんなちょっとずれたところも好き、笠井君。
本来なら趣味の研究室の物品庫の整理をして、そのまま余裕をもって、待ち合わせ場所であるこのビルに行く予定だった。だけど、住良木さんに遭遇したせいで、ぎりぎりになっちゃって……。とりあえず遅刻しないでよかった。
私たちは各階のフロアごとに区切られている展示水槽を少しずつ見て回る。水族館とはいってもビル内の数フロアだけの施設でそれほど大規模なものではないし、クラゲや淡水魚、水草のアクアリウムといった、大人向けの鑑賞用の展示物が多いから家族連れはおらず、それほど混んでいない。
青いライトの薄暗い通路を笠井君と並んで歩く。あー「付き合っている」って感じ。「彼女」として堂々と振舞えることにまた幸せを覚える。
「皆で一生懸命泳いでいて可愛いね」
縦に泳ぐ魚、ヘコアユが群れになって漂っている大きめの水槽の前で私も感想を述べる。今ずっと幸せ。幸せホルモン・オキシトシンがどばどば出ている感じがする。
「……」
「……笠井君?」
一つ上のフロアに上がって、周りに人があまりいなくなった。私と同じくヘコアユを見ていると思った笠井君がじっと押し黙っているのが気になって、私は水槽のライトに照らし出された知的で精悍なその横顔を見つめる。
「――相川さん、さっき住良木さんと会っていました?」
え、バレた。何にも言っていないのに。どうしてだろう。
「う、うん。ここに来る前に物品庫整理に行ったらそこでばったり会っちゃって」
私は髪を耳にかけ直しながら答える。そう、さっき住良木さんに会ったのは全くの偶然。私の物品庫整理は私の気分で不定期に行われることだし、住良木さんも論文の印刷物片手にタブレットを持って棚をチェックしていたから何か研究に関連する用事で訪れていたようだ。
だから、さっきのあれは全くの想定外。ていうか、住良木さん、前日もあんなにしたのにどうしてあそこで発情するかな。元気すぎて困るんだけど。
「物品庫、ですか。もしかして、そこでしました?」
いっ?! なんでバレた?! 「した」とか一言も言っていないのに。
図星すぎて一瞬で赤面し、慌てて水槽の方に視線をやる。上の方で群れになっている一軍のヘコアユに負けた、二軍のヘコアユたちが水槽の底の方で肩を寄せ合って漂っている。
「……なんでわかったの」
明確に答える代わりにぽつりと呟く。賢い笠井君は洞察力も鋭い。
「相川さんからエッチな汁と住良木さんの髪の匂いがします」
笠井君が耳を赤く染めて、ヘコアユを見つめたまま呟く。
嘘?! 私、アレの匂いさせてた?! 住良木さんの髪の匂いも!! 最悪!! 折角、笠井君と二人きりのデートなのに! シャワーを浴びる時間がなかったことが悔やまれる。
「あー物品庫かー。僕、そこに行く度に勃っちゃいますよ。どうしてくれるんですか」
笠井君がヘコアユ達にお辞儀をするように項垂れる。アユたちもこちらが見えているのか、笠井君の頭の辺りから一斉に逃げる。
「……」
私は耳どころか顔面真っ赤になってヘコアユを静かに見つめていた。普段、真面目ぶっているくせに、あんな所でセックスしちゃうなんて。学校ではエッチなことはしないって言っているのに、結局、いつも住良木さんに簡単に流されてしまう自分が恥ずかしい。
「僕が今、考えていること、わかりますよね?」
うん、わかる。私、今、笠井君の「性癖」のスイッチを完全に押してしまった。
「もう魚どころじゃないですよ。ホテルに行きましょう」
笠井君がまるでヘコアユたちに語りかけるみたいにそう言う。
うん、そうなっちゃうよね。今回は私と住良木さんが悪い。
「――ペンギン、見てから行く」
私は少し意地になって、ヘコアユの水槽を前にそう言い放った。別にいつもの流れだけど、今夜は事実関係がはっきりしている分、この後きっと、かなり追い込まれる。私はその目くるめく卑猥な展開を想像して、ごくり、と生唾を飲んだ。
私は笠井君の隣でそのクラゲたちに見とれていた。今、この瞬間、なんて幸せなんだろう。
日曜日の夜。今日は繁華街の商業ビル内にある都市型水族館に笠井君と二人でやってきた。不定期に開催される学割キャンペーンに感謝だ。
つまりデート。ものすごく純粋なデート。ああ、嬉しい。ちょっと伸びた黒い前髪をかき分けて、クラゲを学術的な目でじっと分析する眼鏡の笠井君の横顔を盗み見る。
「こんなに綺麗で毒があるなんて反則ですね」
クラゲを前に独特の感想を述べている。そんなちょっとずれたところも好き、笠井君。
本来なら趣味の研究室の物品庫の整理をして、そのまま余裕をもって、待ち合わせ場所であるこのビルに行く予定だった。だけど、住良木さんに遭遇したせいで、ぎりぎりになっちゃって……。とりあえず遅刻しないでよかった。
私たちは各階のフロアごとに区切られている展示水槽を少しずつ見て回る。水族館とはいってもビル内の数フロアだけの施設でそれほど大規模なものではないし、クラゲや淡水魚、水草のアクアリウムといった、大人向けの鑑賞用の展示物が多いから家族連れはおらず、それほど混んでいない。
青いライトの薄暗い通路を笠井君と並んで歩く。あー「付き合っている」って感じ。「彼女」として堂々と振舞えることにまた幸せを覚える。
「皆で一生懸命泳いでいて可愛いね」
縦に泳ぐ魚、ヘコアユが群れになって漂っている大きめの水槽の前で私も感想を述べる。今ずっと幸せ。幸せホルモン・オキシトシンがどばどば出ている感じがする。
「……」
「……笠井君?」
一つ上のフロアに上がって、周りに人があまりいなくなった。私と同じくヘコアユを見ていると思った笠井君がじっと押し黙っているのが気になって、私は水槽のライトに照らし出された知的で精悍なその横顔を見つめる。
「――相川さん、さっき住良木さんと会っていました?」
え、バレた。何にも言っていないのに。どうしてだろう。
「う、うん。ここに来る前に物品庫整理に行ったらそこでばったり会っちゃって」
私は髪を耳にかけ直しながら答える。そう、さっき住良木さんに会ったのは全くの偶然。私の物品庫整理は私の気分で不定期に行われることだし、住良木さんも論文の印刷物片手にタブレットを持って棚をチェックしていたから何か研究に関連する用事で訪れていたようだ。
だから、さっきのあれは全くの想定外。ていうか、住良木さん、前日もあんなにしたのにどうしてあそこで発情するかな。元気すぎて困るんだけど。
「物品庫、ですか。もしかして、そこでしました?」
いっ?! なんでバレた?! 「した」とか一言も言っていないのに。
図星すぎて一瞬で赤面し、慌てて水槽の方に視線をやる。上の方で群れになっている一軍のヘコアユに負けた、二軍のヘコアユたちが水槽の底の方で肩を寄せ合って漂っている。
「……なんでわかったの」
明確に答える代わりにぽつりと呟く。賢い笠井君は洞察力も鋭い。
「相川さんからエッチな汁と住良木さんの髪の匂いがします」
笠井君が耳を赤く染めて、ヘコアユを見つめたまま呟く。
嘘?! 私、アレの匂いさせてた?! 住良木さんの髪の匂いも!! 最悪!! 折角、笠井君と二人きりのデートなのに! シャワーを浴びる時間がなかったことが悔やまれる。
「あー物品庫かー。僕、そこに行く度に勃っちゃいますよ。どうしてくれるんですか」
笠井君がヘコアユ達にお辞儀をするように項垂れる。アユたちもこちらが見えているのか、笠井君の頭の辺りから一斉に逃げる。
「……」
私は耳どころか顔面真っ赤になってヘコアユを静かに見つめていた。普段、真面目ぶっているくせに、あんな所でセックスしちゃうなんて。学校ではエッチなことはしないって言っているのに、結局、いつも住良木さんに簡単に流されてしまう自分が恥ずかしい。
「僕が今、考えていること、わかりますよね?」
うん、わかる。私、今、笠井君の「性癖」のスイッチを完全に押してしまった。
「もう魚どころじゃないですよ。ホテルに行きましょう」
笠井君がまるでヘコアユたちに語りかけるみたいにそう言う。
うん、そうなっちゃうよね。今回は私と住良木さんが悪い。
「――ペンギン、見てから行く」
私は少し意地になって、ヘコアユの水槽を前にそう言い放った。別にいつもの流れだけど、今夜は事実関係がはっきりしている分、この後きっと、かなり追い込まれる。私はその目くるめく卑猥な展開を想像して、ごくり、と生唾を飲んだ。