理系喪女の私がこんなにモテていいわけがない
番外編2-1
「はあー」
私、相川優香は最新鋭のガスクロマトグラフィの前で、盛大な溜息をついた。
私がこんなんでも、ここ、帝海大学 理化学研究室 新技術開発支援研究所の研究機器はどれも上等で、手順通りに行っていれば、ほとんど失敗は起きない。
「はあ~……」
「おい、はあはあ、うるせえ。幸せが逃げるだろうが」
中央のクリーンベンチ内に設置してある巨大な機器で有機化合物を採取し終えた住良木皐月がこちらに向き直る。
「そんなこと言われても、溜息出ちゃいますよ。まだ四日目ですよ。笠井君から別れを切り出されて……」
「ちっ」と住良木さんは優しさの欠片もない舌打ちをして、採取した化合物を持って別の実験室に消えていった。
――そう、あれだけ盛り上がっていたのに、交際二年目を迎えようとしていた先日、私は笠井君から突然の別れを告げられた。
原因は単純、笠井君の心変わりだった。
なんか、最初から納得いってないところもあったんだよな、住良木さん付きの私が好きだなんて――。
住良木さんが使い終わった機器を調整して手早く片付けると、足りなくなった試薬を確認して、必要なものをタブレットの注文フォームに書き加えていく。
でも、二年続いたわけでしょ。これまでの笠井君の恋愛傾向からすると長い方じゃないかな、なんて前向きに考えてみるが、それでも直近の失恋のショックは簡単に癒えるものではなかった。
* * *
「はあぁ~~」
「だから、うるせえっつってるだろ。飯ぐらい美味しく食え」
昼休み。住良木さんと一緒に学生に混じって学食でランチを食べる。そんなこと言われたって、あんなに愛し合った人との突然の別れのせいで、目の前のロコモコ丼の味もよくわからない。
「住良木さんはよく平気でいられますね。私がこんなに傷ついてるのに」
私も言うようになったな、こんなイケメンを前に。住良木さんの茶色い前髪がクールに額に落ちる。最近、住良木さんはイメチェンをして耳の上に刈り上げを入れて、髪もセミロングぐらいの長さになった。相変わらず不良みたいなファッションをして耳にピアスをつけまくっているその姿はやはり研究員らしくない。新宿辺りにいる職業不詳の怪しいお兄さんみたい。
「別に俺が笠井と付き合ってたわけじゃねぇし。しかもあっちの都合だろ? そんなもん、どうしようもねぇじゃねえか。大人しく引き下がれ。上手くいってたのは俺のおかげでもあるんだしな」
く、その通りすぎる。住良木さんは無駄にかっこよくからあげ丼を食べている。学部の女子たちの視線が痛い。
「……そうなんですけど。あんなに好きだって言ってたのに、ある日突然、『別れましょう』だなんて。笠井君、悪魔すぎでしょ。私もう恋なんて無理ですよ」
私もなんだかんだでお腹が空いていたみたいで、味がわかんないなんて愚痴を言いながらもぱくぱくとロコモコ丼を食べ進めていった。相変わらず図太いな、私。来世は失恋したらやつれるタイプに生まれ変わりたい。
「あのなぁ、所詮、学生時代の恋愛なんてそんなもんだろ。俺、あいつと恋バナみたいなんしたことあるけど、大体ばーっと燃え上がって、ふっと冷めるみたいな感じだったぜ。今回もそうだったんだろ」
「そうなんですかね~……」
私はカットトマトを頬張りながらぼんやりと答えた。別れたとは言っても、笠井君には春先からあまり会っておらず、先週、呼び出されて突然、別れを切り出されたきりだったから詳細はよく分かっていない。別れるって言われた時もショックすぎて、話し合いもろくにしないで帰っちゃったし。
「……家で聞いてやろうか? その愚痴」
住良木さんがにやっと笑って、からあげを頬張る。
――それって、そういうことかな。そういえば、このところ落ち着かなくて、住良木さんと寝ていない。色々あって住良木さんの優先順位が私の中で下がっている。
「……うーん、今はいいです。もうちょっと一人で考えたいし」
「考えるって、別にもう考えることねぇだろ。こういう時はストレス発散だぞ、相川」
住良木さんが、向かいに座っている私の足の間に自分の足をそっと入れてくる。
――何やっとんじゃ、学食で。と私は強気にその足をびしっと蹴っ飛ばす。
「いってぇ。校内暴力だ」
と、住良木さんは大して気にしていない様子で、からあげ丼の残りをかき込む。
ああ、笠井君も住良木さんみたいに単純明快な思想と性欲の持ち主だったら良かったのに。私はそう思いつつ、住良木さんの真似をして残りわずかなロコモコ丼をかき込んだ。
私、相川優香は最新鋭のガスクロマトグラフィの前で、盛大な溜息をついた。
私がこんなんでも、ここ、帝海大学 理化学研究室 新技術開発支援研究所の研究機器はどれも上等で、手順通りに行っていれば、ほとんど失敗は起きない。
「はあ~……」
「おい、はあはあ、うるせえ。幸せが逃げるだろうが」
中央のクリーンベンチ内に設置してある巨大な機器で有機化合物を採取し終えた住良木皐月がこちらに向き直る。
「そんなこと言われても、溜息出ちゃいますよ。まだ四日目ですよ。笠井君から別れを切り出されて……」
「ちっ」と住良木さんは優しさの欠片もない舌打ちをして、採取した化合物を持って別の実験室に消えていった。
――そう、あれだけ盛り上がっていたのに、交際二年目を迎えようとしていた先日、私は笠井君から突然の別れを告げられた。
原因は単純、笠井君の心変わりだった。
なんか、最初から納得いってないところもあったんだよな、住良木さん付きの私が好きだなんて――。
住良木さんが使い終わった機器を調整して手早く片付けると、足りなくなった試薬を確認して、必要なものをタブレットの注文フォームに書き加えていく。
でも、二年続いたわけでしょ。これまでの笠井君の恋愛傾向からすると長い方じゃないかな、なんて前向きに考えてみるが、それでも直近の失恋のショックは簡単に癒えるものではなかった。
* * *
「はあぁ~~」
「だから、うるせえっつってるだろ。飯ぐらい美味しく食え」
昼休み。住良木さんと一緒に学生に混じって学食でランチを食べる。そんなこと言われたって、あんなに愛し合った人との突然の別れのせいで、目の前のロコモコ丼の味もよくわからない。
「住良木さんはよく平気でいられますね。私がこんなに傷ついてるのに」
私も言うようになったな、こんなイケメンを前に。住良木さんの茶色い前髪がクールに額に落ちる。最近、住良木さんはイメチェンをして耳の上に刈り上げを入れて、髪もセミロングぐらいの長さになった。相変わらず不良みたいなファッションをして耳にピアスをつけまくっているその姿はやはり研究員らしくない。新宿辺りにいる職業不詳の怪しいお兄さんみたい。
「別に俺が笠井と付き合ってたわけじゃねぇし。しかもあっちの都合だろ? そんなもん、どうしようもねぇじゃねえか。大人しく引き下がれ。上手くいってたのは俺のおかげでもあるんだしな」
く、その通りすぎる。住良木さんは無駄にかっこよくからあげ丼を食べている。学部の女子たちの視線が痛い。
「……そうなんですけど。あんなに好きだって言ってたのに、ある日突然、『別れましょう』だなんて。笠井君、悪魔すぎでしょ。私もう恋なんて無理ですよ」
私もなんだかんだでお腹が空いていたみたいで、味がわかんないなんて愚痴を言いながらもぱくぱくとロコモコ丼を食べ進めていった。相変わらず図太いな、私。来世は失恋したらやつれるタイプに生まれ変わりたい。
「あのなぁ、所詮、学生時代の恋愛なんてそんなもんだろ。俺、あいつと恋バナみたいなんしたことあるけど、大体ばーっと燃え上がって、ふっと冷めるみたいな感じだったぜ。今回もそうだったんだろ」
「そうなんですかね~……」
私はカットトマトを頬張りながらぼんやりと答えた。別れたとは言っても、笠井君には春先からあまり会っておらず、先週、呼び出されて突然、別れを切り出されたきりだったから詳細はよく分かっていない。別れるって言われた時もショックすぎて、話し合いもろくにしないで帰っちゃったし。
「……家で聞いてやろうか? その愚痴」
住良木さんがにやっと笑って、からあげを頬張る。
――それって、そういうことかな。そういえば、このところ落ち着かなくて、住良木さんと寝ていない。色々あって住良木さんの優先順位が私の中で下がっている。
「……うーん、今はいいです。もうちょっと一人で考えたいし」
「考えるって、別にもう考えることねぇだろ。こういう時はストレス発散だぞ、相川」
住良木さんが、向かいに座っている私の足の間に自分の足をそっと入れてくる。
――何やっとんじゃ、学食で。と私は強気にその足をびしっと蹴っ飛ばす。
「いってぇ。校内暴力だ」
と、住良木さんは大して気にしていない様子で、からあげ丼の残りをかき込む。
ああ、笠井君も住良木さんみたいに単純明快な思想と性欲の持ち主だったら良かったのに。私はそう思いつつ、住良木さんの真似をして残りわずかなロコモコ丼をかき込んだ。