理系喪女の私がこんなにモテていいわけがない
第二章
――うーん、ふわふわする。いい気持ち。なんだか空でも飛んでいるみたい。
オレンジかな、レモンかも。柑橘類の良い匂いがする。とっても気持ちいい――。
――夢か? ていうか、ここはどこ?
私はふかふかした意識の中から突如、目が覚めて身を起こし、辺りを見回した。
あれ? なんかムーディーな間接照明の中でサテン地のピンク色の布団にくるまれている。どういうことだ? 途中の記憶が全くない。
「んー起きたか」
あ、住良木さん。壁際に備え付けてある鏡台のようなものの小さな椅子に座って、腕を組んでうとうとしている。あれ? なんであんなとこに座っているのかな。居酒屋で一緒に飲んでいたところまでは覚えているんだけど。
私はきょろきょろとあたりを見回す。ボタンがいっぱいのベッド上の設備、サイドテーブルの怪しい備品、やたら広いベッド、ガラス張りのシャワールーム、あれ、ここってもしかして――。
「ラブホ?」
私はそうぽつりと漏らすと、急に意識をはっきりと取り戻した。ヤバい! やっちまった! 記憶飛ばした! ていうかなんで住良木さんとラブホに入ってんだ、私! 服! 服は着てるよね!?
気になって手で服の感触を確かめる。カットソーのコットン生地とジャケットのごわついた感じ、ガサガサした黒デニムが手に触れる。よかった。そのまんまだ。
「そうだよ、ラブホ。お前なんも覚えてねーの」
「居酒屋にいたところまでは覚えてるんですけど……」
そうだ、確かに私は住良木さんと居酒屋で飲んでいた。テクニシャンの話を頂いて、いい気分になって二人で乾杯して、お祝いだからってグラスワインを飲んで、その後、住良木さんが「契りを交わす」とか言い出して日本酒を頼んで、二人で飲んで酔っ払って……。その辺りから大分怪しい。居酒屋を出た記憶がほとんどない。
「お前、植え込みのとこで吐いてたぞ。そんで帰れなくなってしょうがないから近所の適当なホテルに入ったんだよ」
まじか、私。完全に記憶がない。でも、そういえば口の中がゲロ臭い。
「ホテルでも吐いてたぞ。お前、そんな飲めなかったっけ。大分疲れてんじゃねえの」
住良木さんがペットボトルのお茶を手渡してくれる。私はありがたくそれを受け取って口の中の不快感を消すためにごくごくと勢いよく飲む。
「そんなことになってたんですね。申し訳ありません。疲れてはいないんですけど、飲み自体久しぶりでして身体がついていかなかったみたいで……」
住良木さんに介抱させちゃったのか。すごく悪いことしちゃった。大反省。
「まあ、酒のちゃんぽんさせたのは俺だしな。やりすぎたわ。もう大丈夫か?」
私はこくこくと全力で頷いた。住良木さん、もしかして、私が目を覚ますまでずっと見守っていてくれた? そんな風に見えないのに意外と面倒見がいいんだ。
「出すもの出したらすっきりしたみたいです。どうもご迷惑おかけしてすみませんでした」
私はベッドの上で土下座して住良木さんに謝る。今も同室だし、未来の同僚になるかもしれない住良木さんに遺恨は残したくない。
「いいよ、もう。元気になったんだったら俺帰るわ。お前泊まっていけよ」
住良木さんが財布をごそごそ探ってお札を出そうとしている。でも、今、深夜じゃない? 電車ないんじゃないの? タクシーで帰るわけ? 介抱させちゃった上に住良木さんにホテル代やタクシー代まで出させるのは申し訳なさすぎる。
「帰るってどうやって帰るんですか? もう終電出てますしタクシーも高いですよ。住良木さんも泊まっていけばいいじゃないですか」
私は布団をとんとんと叩いて住良木さんを誘う。ベッドだってこんなに広いんだから離れて眠れば大丈夫だろう。
「――お前なぁ、全く教訓が活きていないだろ」
教訓? 教訓とはなんぞや。
「大丈夫ですよ。ベッド広いですし。私と住良木さんでなんか起こるわけないじゃないですか」
そうそう。そんなことありえない。住良木さんだけじゃなくて今の女を捨てた理系喪女の私じゃどんな男の子とだって何も起こりえない。私に発情するのはせいぜいパパ活狙いのキモイ教授ぐらいなものだ。
「いいのかよ。お前、笠井のこと好きなんだろ? 変なことになったら困るのはお前だろ」
え!? なんで住良木さんがそのこと知ってるの? どうして?
「なんで知ってるんですか? 誰に聞きました?」
私は布団を引き上げて顔を隠しながら尋ねた。
「別に聞かなくても四六時中お前らと一緒にいりゃ分かるよ、それぐらい」
そうなの?! そんなに態度に出ていた? ヤバい、笠井君にも気持ちがばれているのかな。恥ずかしすぎる。週明けにどんな顔して会えばいいんだろう。
「あいつは気付いてないと思うけどな。なんか壁がある感じだし。多分俺らに言えない秘密、抱えてるぜ」
住良木さんは帰る気が失せたのかベッド脇に腰掛ける。大柄な住良木さんの体重でベッドが横に軋む。
オレンジかな、レモンかも。柑橘類の良い匂いがする。とっても気持ちいい――。
――夢か? ていうか、ここはどこ?
私はふかふかした意識の中から突如、目が覚めて身を起こし、辺りを見回した。
あれ? なんかムーディーな間接照明の中でサテン地のピンク色の布団にくるまれている。どういうことだ? 途中の記憶が全くない。
「んー起きたか」
あ、住良木さん。壁際に備え付けてある鏡台のようなものの小さな椅子に座って、腕を組んでうとうとしている。あれ? なんであんなとこに座っているのかな。居酒屋で一緒に飲んでいたところまでは覚えているんだけど。
私はきょろきょろとあたりを見回す。ボタンがいっぱいのベッド上の設備、サイドテーブルの怪しい備品、やたら広いベッド、ガラス張りのシャワールーム、あれ、ここってもしかして――。
「ラブホ?」
私はそうぽつりと漏らすと、急に意識をはっきりと取り戻した。ヤバい! やっちまった! 記憶飛ばした! ていうかなんで住良木さんとラブホに入ってんだ、私! 服! 服は着てるよね!?
気になって手で服の感触を確かめる。カットソーのコットン生地とジャケットのごわついた感じ、ガサガサした黒デニムが手に触れる。よかった。そのまんまだ。
「そうだよ、ラブホ。お前なんも覚えてねーの」
「居酒屋にいたところまでは覚えてるんですけど……」
そうだ、確かに私は住良木さんと居酒屋で飲んでいた。テクニシャンの話を頂いて、いい気分になって二人で乾杯して、お祝いだからってグラスワインを飲んで、その後、住良木さんが「契りを交わす」とか言い出して日本酒を頼んで、二人で飲んで酔っ払って……。その辺りから大分怪しい。居酒屋を出た記憶がほとんどない。
「お前、植え込みのとこで吐いてたぞ。そんで帰れなくなってしょうがないから近所の適当なホテルに入ったんだよ」
まじか、私。完全に記憶がない。でも、そういえば口の中がゲロ臭い。
「ホテルでも吐いてたぞ。お前、そんな飲めなかったっけ。大分疲れてんじゃねえの」
住良木さんがペットボトルのお茶を手渡してくれる。私はありがたくそれを受け取って口の中の不快感を消すためにごくごくと勢いよく飲む。
「そんなことになってたんですね。申し訳ありません。疲れてはいないんですけど、飲み自体久しぶりでして身体がついていかなかったみたいで……」
住良木さんに介抱させちゃったのか。すごく悪いことしちゃった。大反省。
「まあ、酒のちゃんぽんさせたのは俺だしな。やりすぎたわ。もう大丈夫か?」
私はこくこくと全力で頷いた。住良木さん、もしかして、私が目を覚ますまでずっと見守っていてくれた? そんな風に見えないのに意外と面倒見がいいんだ。
「出すもの出したらすっきりしたみたいです。どうもご迷惑おかけしてすみませんでした」
私はベッドの上で土下座して住良木さんに謝る。今も同室だし、未来の同僚になるかもしれない住良木さんに遺恨は残したくない。
「いいよ、もう。元気になったんだったら俺帰るわ。お前泊まっていけよ」
住良木さんが財布をごそごそ探ってお札を出そうとしている。でも、今、深夜じゃない? 電車ないんじゃないの? タクシーで帰るわけ? 介抱させちゃった上に住良木さんにホテル代やタクシー代まで出させるのは申し訳なさすぎる。
「帰るってどうやって帰るんですか? もう終電出てますしタクシーも高いですよ。住良木さんも泊まっていけばいいじゃないですか」
私は布団をとんとんと叩いて住良木さんを誘う。ベッドだってこんなに広いんだから離れて眠れば大丈夫だろう。
「――お前なぁ、全く教訓が活きていないだろ」
教訓? 教訓とはなんぞや。
「大丈夫ですよ。ベッド広いですし。私と住良木さんでなんか起こるわけないじゃないですか」
そうそう。そんなことありえない。住良木さんだけじゃなくて今の女を捨てた理系喪女の私じゃどんな男の子とだって何も起こりえない。私に発情するのはせいぜいパパ活狙いのキモイ教授ぐらいなものだ。
「いいのかよ。お前、笠井のこと好きなんだろ? 変なことになったら困るのはお前だろ」
え!? なんで住良木さんがそのこと知ってるの? どうして?
「なんで知ってるんですか? 誰に聞きました?」
私は布団を引き上げて顔を隠しながら尋ねた。
「別に聞かなくても四六時中お前らと一緒にいりゃ分かるよ、それぐらい」
そうなの?! そんなに態度に出ていた? ヤバい、笠井君にも気持ちがばれているのかな。恥ずかしすぎる。週明けにどんな顔して会えばいいんだろう。
「あいつは気付いてないと思うけどな。なんか壁がある感じだし。多分俺らに言えない秘密、抱えてるぜ」
住良木さんは帰る気が失せたのかベッド脇に腰掛ける。大柄な住良木さんの体重でベッドが横に軋む。