アオハル×フラグ=恋。
   *


愛華「……まぁ、ここでいいか」


愛華は体育館裏で足を止めた。


傾き始めた春の陽射しが、
木々の隙間から薄く差し込んでいる。

ザザッ——。

風が吹くたび、
葉の擦れる音が静かに響いた。


蒼「話って? 俺なんかした?」


愛華は答えない。

ただ、
じっと蒼を見る。


その真っ直ぐな視線に、
蒼は少しだけ居心地悪そうに眉を動かした。


そして。


愛華「お前、里穂に惚れただろ」


蒼「……はぁ?」


あまりにも予想外すぎて、
間の抜けた声が出る。


愛華「正直に言えよ。里穂のこと気になってるだろ?」
蒼大「……どっちだってよくない?」

愛華「一目惚れだろ」

蒼「……」

愛華「道聞いたのもわざとだろ」

蒼「っ……」


蒼の表情がどんどん変わる。


図星だった。


愛華は大きくため息を吐く。


愛華「やっぱりな。携帯も持ってんだろ」

蒼「……持ってるよ」


少し間を置いて、
蒼は認めた。


蒼「寝坊したのはほんと。でも道に迷ったってのは嘘」

愛華「分かりやすすぎなんだよ」

蒼「悪かったとは思ってる」


愛華は少しだけ空を見る。


そして。


愛華「別に、里穂を好きになるのは勝手でいい」

蒼「……」

愛華「でも、里穂を悲しませるようなことだけは絶対すんな」


口調が少し低くなる。


蒼「好きになるだけで、悲しませるようなことにはならないだろ」

愛華「それがあるんだよ。里穂には」


蒼は黙る。


愛華「……あいつ、自分じゃ分かってないけどさ」

愛華は小さく笑う。


でもその笑い方は、
少し苦しそうだった。


愛華「見た奴みんな振り返るくらい可愛いんだよ」


蒼は否定できなかった。


朝、坂の下で振り返った瞬間。

正直、一瞬で目を奪われた。


蒼「……それは分かる」


小さく答える。


蒼「だから一目惚れした」

愛華「だろうな」


愛華は壁にもたれながら続ける。


愛華「可愛くて、優しくて、距離感近くて、面倒見もいい」


春風が吹く。


愛華「そんなやつが、普通に学校生活送ってたらどうなると思う?」


蒼は答えられない。


愛華「告白なんかしょっちゅう」

愛華「あったことも無い男子からも普通に告白される」

愛華「でもその大半は、“西尾里穂を彼女にしたい”ってだけ」


愛華の目が少し伏せられる。


愛華「可愛い彼女がいる自分になりたいだけ」

愛華「好きっていうより、ステータスなんだよ」


蒼は何も言わない。


愛華「だから、あいつが誰かを気になっても」

愛華「好きになる前に雑に告白されて終わる」


愛華は悔しそうに唇を噛む。


愛華「しかも振ったら陰口」

愛華「暴言」

愛華「勝手に期待されて、勝手に傷つけられて」


静かな声だった。


でも。


その静かさが逆に重かった。


愛華「……気づいたら、あいつ」

愛華「恋がなんなのか分からなくなってた」


蒼は目を伏せる。



愛華「分かったかよ、転校生」

愛華の声が、
少しだけ震える。


愛華「里穂は、恋が分かんないんだ」

愛華「お前ら男子のせいで」


蒼は何も返せなかった。


愛華「いいよ、好きになるのは」

愛華「でも、ちゃんと好きになれ」


真っ直ぐな目。


不安そうに揺れている。


愛華「あいつを好きになるの、多分めんどくさいぞ」

愛華「ハラハラするし、心配にもなる」

愛華「でも、一回好きになったなら」


愛華はゆっくり言う。


愛華「最後まで好きでいてやって」


春風が、
二人の間を抜ける。


愛華「……重いだろ?」


少しだけ苦笑する。


愛華「今ならまだ無かったことにできる」

愛華「転校初日から悪かったな」

愛華「でも、一回考えてくれ」


そう言って、
愛華は背を向ける。


歩き出そうとした時。


蒼「……お前に言われなくても」


愛華の足が止まる。


蒼「貫くつもりだった」


静かな声だった。


でも、
はっきりしていた。


蒼「だから安心してほしい」

蒼「西尾は、絶対悲しませない」


愛華は一瞬だけ立ち止まる。


けれど、振り返らないまま体育館裏を後にした。


   *


「……っはぁー……」


愛華がいなくなったあと、
蒼はその場で大きく息を吐いた。


蒼「怖すぎだろ……息止まったわ……」


力が抜けたように笑う。


そして────


ポケットへ手を入れる。


旧校舎で見つけた、
あの封筒。


蒼はゆっくり中身を取り出した。


中には、
一枚の大学ノートの切れ端。


そこには、
デカデカと汚い字で書かれていた。


『・一度好きになったら死ぬまで好きでい続けろ。

・何があっても守り抜け。

・自分と相手を信じぬけ。

・泣かすな。笑顔にさせろ。

・不安にさせるな。安心させろ。』


蒼「……なんだよこれ」


思わず笑う。


蒼「こんな当たり前のこと、仰々しく封筒に入れて隠しとくなよな」


でも。


なぜか少しだけ、
力が湧いた。


蒼はもう一度、
その文字を見る。


そして。


一人で小さく笑った。


蒼「……やってやるよ」


夕陽が、
古い文字を照らす。


蒼「男に二言はねぇから」
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