アオハル×フラグ=恋。
   *


古本屋の中は、
むせ返るような古い紙の匂いで満ちていた。


少し黄ばんだ本。

ぎっしり並んだ本棚。

静かな空気。


時間だけ、
ここはゆっくり流れてる気がする。


「なんか落ち着くね、ここ」

里穂は小さな声で言う。


蒼「だろ?」


蒼は慣れた様子で、読みたい本を手に取る


古本屋なのに、
店の片隅には小さなテーブル席もある。


どうやら、
そこで本を読んでいいらしい。


里穂と蒼は、
向かい合う形で席へ座っていた。


静かだった。


ページをめくる音だけが、
時々聞こえる。


里穂は、
ちらりと向かいを見る。


本を読む蒼。


細く綺麗な指。

長いまつ毛。

すっと伸びた鼻筋。

枝毛ひとつなさそうな、
綺麗な黒髪。


……顔整いすぎでは?


里穂はぼんやり思う。


いつの間に里穂は蒼を凝視していたらしい

蒼「……なんだよ」


「ひゃっ」


視線に気づいた蒼が、
本から顔を上げる。


「い、いや別に!」


慌てて目を逸らす。


「ご、ごめん」


そう言って、
里穂は本へ視線を落とした。


でも。


さっきから、
身体がおかしい。


『西尾は、俺が絶対守るよ』


あの言葉を聞いてから。


心臓がずっと、
ドクドク鳴っている。


身体の奥が、
じんわり熱い。


でも。


里穂には、
それがなんなのか分からなかった。


怖かったから?

助けてもらったから?


それとも——。


考えようとすると、
余計分からなくなる。


なのに。


身体は正直だった。


気づけばまた、
蒼を見てしまう。


蒼「……おい」


また目が合う。


蒼「なんだよさっきから」


少し目を細める。


蒼「なんかついてる?」


「っっ……!」


里穂は一気に顔が熱くなる。


「い、いやっ! ごめん! ほんとごめん!!」


ガタンッ!!


勢いよく立ち上がる。


蒼「え?」


「さ、先帰るね!!」


蒼「お、おい待てって!」


里穂はそのまま、
逃げるように店を飛び出した。


古本屋のドアベルが、
カランカランと大きく鳴る。


外へ出た瞬間。


「っ〜〜〜〜〜!!」


里穂は顔を押さえた。


心臓がうるさい。


意味が分からない。


なんなのこれ。


春の夕暮れの風が、
熱くなった頬を撫でていった。
< 17 / 56 >

この作品をシェア

pagetop