アオハル×フラグ=恋。
   *


次の日の朝。

里穂は珍しく、目覚ましが鳴る前に目を覚ました。

カーテンの隙間から差し込む朝日。

枕元の時計を見る。

まだ予定の時間より十分も早い。

それなのに、全く眠くない。

むしろ胸の奥がそわそわして落ち着かなかった。

昨日交換したLINE。

一緒に帰った帰り道。

そして今日。

初めての待ち合わせ。

里穂は布団を頭まで被る。

「いやいやいや!」

足をバタバタさせる。

「別にそういうんじゃないし!」

誰も聞いていないのに言い訳する。

でも。

顔が熱い。

結局そのままベッドから飛び起きた。


   *


鏡の前。

里穂は念入りに髪を整える。

前髪よし。

後ろよし。

横よし。

少し離れて確認。

そしてまた前髪を触る。

「私なにやってんだろ……」

自分で自分に呆れる。

けれど手は止まらない。

軽く化粧もする。

制服も綺麗に整える。

外は昨日とは打って変わって快晴だった。

キラキラとした陽射し。

雲ひとつない青空。

まるで今の気分みたいだった。


階段を降りると、

里穂母「珍しく早起きね」

「昨日の雨で自転車置きっぱだから!」


里穂父は新聞を読みながらチラリと娘を見る。

里穂父「なんかいいことでもあった?」

「へ?」

里穂父「鼻歌なんか歌ってるし」

里穂母「歌ってたわよ、鏡の前でも」


「えっ!?歌ってた!?」

里穂は慌てる。

里穂父母は顔を見合わせる。

里穂父「青春だなぁ」

「違うから!」

里穂母「そういう否定の仕方は怪しいのよ」

「違うってば!」

里穂は真っ赤になりながら朝食を流し込む。

そして勢いよく立ち上がった。

「行ってきます!」

里穂父「早っ!」

里穂母「気をつけてねー!」

里穂は返事もそこそこに家を飛び出した。


   *


爽やかな朝の風が吹く。

坂道を駆け下りる。

胸の奥が少しだけ騒がしい。

蒼のことが好きなのか。

正直まだ分からない。

でも。

特別だ。

それだけは確実だった。

今までの男子とは違う。

もっと話したい。

もっと知りたい。

そう思える相手だった。

坂の下には公園がある。

大きな木が目印の公園。

待ち合わせ場所。

里穂は公園へ足を踏み入れる。


そして。


「いたっ……」


思わず小さく呟く。


ベンチに蒼がいた。


朝日に照らされながら本を読んでいる。

黒髪が風で少し揺れる。

静かな空気。

その姿が妙に絵になっていて。

里穂は一瞬だけ立ち止まった。

かっこいい。

そんな言葉が頭をよぎる。

その瞬間。

蒼が顔を上げた。

目が合う。

ドクン。

胸が鳴る。


「あっ、お待たせ!」


里穂は慌てて前髪を整えながら駆け寄った。


蒼「おっ、おはよう!」


蒼も少し慌てたように本を閉じる。


「待った?」


蒼「いや、今来たとこだから」


絶対嘘だ。

ほんから垂れてる栞からだいぶんページが進んでいる。

そういう優しい嘘は嫌いじゃなかった。


「そっか」


里穂は笑う。

蒼も少しだけ笑った。

そして二人は並んで歩き始める。


最初は少し沈黙だった。

お互い何を話していいか分からない。

昨日のLINEを思い出す。

『私も平井くんと一緒に登校したい!』

思い出した瞬間。

死にたくなった。

蒼「昨日ちゃんと寝れた?」

「へ?」

蒼「寝落ちしてただろ」

「あーーー!」

里穂は顔を覆う。

蒼は吹き出した。

蒼「そんな恥ずかしがることか?」

「するよ!」

蒼は楽しそうに笑う。

その顔を見ていると。

なんだか自分まで嬉しくなる。


気づけば会話は自然と続いていた。

好きな本。

好きな漫画。

好きな食べ物。

東京での話。

どうでもいい話。

でも不思議と楽しい。

あっという間だった。


   *


学校が見えてくる。


校門。


そして。


「げっ」


思わず声が漏れる。


そこには。


菜々子。

好桜。

愛華。


三人が並んで立っていた。


しかも。


全員ニヤニヤしている。


蒼「どうした?」

「終わった」

蒼「は?」


菜々子「おっはよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


校門前に響き渡る大声。


「やめろぉぉぉぉぉ!!!」


好桜「朝から仲良しですねぇ♪」

愛華「へぇー」


愛華は腕を組みながらニヤニヤしている。


菜々子「待ち合わせですかぁー?」

「違う!」

菜々子「何が?」

「全部!」

好桜「でも一緒に来ましたよね?」

「うっ」

愛華「しかも二人とも顔真っ赤だしな」

「うっ」

好桜「青春ですねぇ〜」

「違うってばぁぁぁ!!!」


三人は大爆笑。


蒼も横で笑っている。


「平井くんまで笑うな!」

蒼「ごめんごめん」

全然反省してない。


春の陽射しが降り注ぐ朝。

西尾 里穂の恋は。

少しずつ。

けれど確実に前へ進み始めていた。
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