アオハル×フラグ=恋。

ビターな体育祭実行委員

   *


「あっつうぅぅぅぅ〜……」


里穂は机にへばりつく。



まだ梅雨も明けていないというのに、
教室の中は蒸し暑かった。


窓は全開。


扇風機も回っている。


けれど全然足りない。


蒼「里穂、おーい」


「んえぇ?」


里穂はぐでーっとしたまま、
隣を見る。


蒼「次の時間、体育祭実行委員決めだぞ」


「うん……」


蒼「ちゃんと手挙げろよ」


「そっちこそ!」


里穂は勢いよく身体を起こす。


「蒼から一緒にやろって言ったんだからね!」


蒼「言ったけど」


「絶対手挙げてよ!」


蒼「はいはい」


蒼は苦笑する。


その顔を見て、
里穂も少し笑った。


最近は、
こういう何気ないやり取りが増えた。


当たり前みたいに話して。


当たり前みたいに隣にいて。


当たり前みたいに一緒に帰る。


そんな関係になっていた。


   *


里穂の恋が動き始めてから。


────二ヶ月。


現在六月。


あの日。

初めて蒼と一緒に登校した日から。


二人は毎日、
一緒に登下校していた。


最初は緊張していた。


何を話せばいいか分からなくて。


少し沈黙になるだけで、
変な汗をかいていた。


けれど。


今では違う。


学校までの道。


公園のベンチ。


坂道。


コンビニ。


全部が二人の思い出になっていた。


里穂は早起きするようになった。


以前ならギリギリまで寝ていたのに。


今では待ち合わせ時間の1時間前には起きる。


歩きは正直疲れる。


自転車の方が圧倒的に楽だ。


でも。


そんなことどうでも良かった。


少しでも。


一分でも。


長く蒼と一緒にいたい。


そう思う自分がいた。


恋の力ってすごい。


里穂は今でもそう思う。


ちなみに。


里穂の自転車は、
家の駐輪場で少しホコリを被っていた。


   *


二ヶ月という時間は、
二人の距離も変えた。


「平井くん」

と呼んでいた名前は。


いつの間にか。


「蒼」


になっていた。


蒼も。


「西尾」


ではなく。


「里穂」


と呼ぶようになっていた。


休みの日。


たまに二人で古本屋へ行く。


向かい合って本を読む。


読み終わった本の話をする。


帰りにコンビニでアイスを買う。


そんな時間が。


里穂は好きだった。


けれど。


最近は少しだけ悩みもあった。


それ以上。


進展がないのだ。


理由は分かっている。


もし。


これ以上踏み込んだら。


それは。


告白になる。


恋人になるかどうかの話になる。


もしダメだったら?


もし蒼が、
自分のことをそういう目で見ていなかったら?


もし。


今の関係が壊れてしまったら?


それが怖かった。


蒼はモテる。


西ヶ丘高校へ転校してきてから。


すでに十人以上に告白されていた。


そして。


その度に。


里穂は死ぬほどドキドキしていた。


もし。


「うん」


って言ったらどうしよう。


もし。


誰かと付き合ったらどうしよう。


その度に胸が苦しくなる。


でも。


蒼は全員断っていた。


それなのに。


不安は消えない。


蒼が。


知らない女の子と楽しそうに話しているだけで。


少しモヤモヤする。


一緒に歩いているところなんて見たら。


たぶん立ち直れない。


「私ってこんな嫉妬深かったんだ……」


里穂は最近よく思う。


蒼に出会うまでは知らなかった。


特別な存在。


会いたい。


話したい。


隣にいたい。


嫉妬。


不安。


焦り。


安心。


暖かさ。


全部ひっくるめて。


この感情が。


人を好きになるってことなんだと。


最近ようやく分かってきた。


だからこそ。


怖い。


今の関係を壊したくない。


失いたくない。


この気持ちは。


まだ誰にも相談できていなかった。


愛華にも。


好桜にも。


菜々子にも。


言ったらきっと。


「はよ告白しろ」


って言われるから。


それが目に見えている。


だから。


里穂は今日も。


胸の奥にある想いを。


誰にも言えないまま抱えていた。
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