アオハル×フラグ=恋。
「先、帰るね。」

放課後。

里穂は鞄を肩に掛けながらそう言った。

菜々子「えっ、もう帰るの?」

好桜「もう、何日も一緒に帰ってないですよ」

愛華は何も言わず里穂を見ている。

「今日も一人で帰りたい気分なの」

無理やり笑ってそう答える。


本当は、


蒼を見たくなかった。

委員会が始まってから一ヶ月。

蒼の隣にはいつも詩音がいた。

楽しそうに話している姿。

委員会を理由に一緒にいる姿。

見るたび胸が苦しくなる。

だから今日はもう帰りたかった。

愛華「ちょっと待って」

低い声。

里穂は足を止める。

「なにー。今日はもう帰るよ」

愛華「ダメ。」

即答だった。

愛華「帰る前に話があるから。」

「明日じゃダメ?」

愛華「ダメ。今聞いて。」

空気が変わる。

その声を聞いて里穂は振り返った。

菜々子も。

好桜も。

真剣な顔をしていた。

愛華「こっち来て。」

そう言って里穂の手を掴む。

「えええぇ!?ちょっと!」

愛華はお構いなしだった。

そのまま引っ張っていく。

後ろから菜々子と好桜もついてくる。



そして

────屋上



ガチャリ。

愛華が鍵を閉める。

「待って、何?」

里穂は少しだけ怒っていた。

余裕がなかった。

自分でも分かるくらい。

イライラしていた。

愛華「大事な話をする時はやっぱりここでしょ」

「大事な話って何?」

里穂は視線を逸らす。

愛華の顔が見れない。

愛華「里穂」

静かな声。

「なに?」

愛華「いいの?」

「え?」

愛華は真っ直ぐ里穂を見る。

愛華「このままでいいの?」

「このままって?」

愛華「平井のことに決まってるじゃん!」

菜々子と好桜も大きく頷く。

「別になんとも思ってないし」

菜々子「嘘はダメだめよ、りほりほ」

好桜「自分の気持ちに気づいてないなんて嘘ですよ!」

愛華「このままだと本当に取られるぞ」

胸がチクチクと痛む。


愛華「体育祭まであと十日しかないんだぞ!」

愛華の声が響く。

愛華「あの女子どんどん平井に言い寄ってるじゃん!」

「……別に」

里穂は拳を握る。

「蒼は私の物じゃないし」

愛華「だからだろ!!」

愛華の大きな声が屋上に響いた。

里穂の肩が震える。

愛華「だから、自分の力で掴み取らなきゃダメなんだろ!」

「無理だよ……」

里穂は首を振る。

「あんな風にグイグイいけないし」

好桜「別にグイグイ行かなくてもいいじゃないですか!」

菜々子「そうだよ!りほりほはりほりほのままでいいんだよ!」

愛華「あの日なんで相合傘誘えた?」

里穂が顔を上げる。

「なんで知って────」

愛華「あの日なんで平井に声かけた?」

里穂は思い出す。


蒼と初めて一緒に帰った日。

もっと知りたかった。

もっと話したかった。

もっと一緒にいたかった。

だから勇気が出た。

「でも……」

愛・菜・好「「「でもじゃない!!」」」

三人の声が重なる。

里穂は目を見開いた。

里穂は拳を握る。

後悔。

それだけはしたくなかった。



「わっ……わかった」

そう言って走り出す。

屋上の扉を開ける。

菜々子「いけぇぇぇぇ!!」

好桜「頑張ってくださいー!!」

愛華「逃げんなよ!」

三人の声を背中に受けながら。

里穂は全力で階段を駆け下りた。

大きなお願いなんてない。

ただ。


朝早くてもいいから一緒に行きたい。


遅くなってもいいから一緒に帰りたい。


それだけ。


それだけ伝えたい。


一階まで駆け下りる。

蒼なら。

きっとあの空き教室だ。

初めて二人で入った教室。

里穂はそこを目指した。

校内は静かだった。

自分の足音だけが響く。

ドクドクと心臓が鳴る。


怖い。


恥ずかしい。


でも。


言わなきゃ。


あの教室だ。

里穂は走るのをやめる。

ゆっくり近づく。


まだあの子いるかな。


二人きりだったら嫌だな。


それでも言おう。


どんなに恥ずかしくても。


里穂はそっと教室を覗いた。

そして。

動きが止まる。

「え……」

教室の中。




夕日に照らされてオレンジ色の教室の真ん中で、蒼と詩音は抱き合ってキスをしていた────


里穂の思考が止まる。


一ヶ月。


ずっと不安だった。


ずっと怖かった。


ずっと嫉妬していた。


そして今。


その不安が現実になったように見えた。


見間違いかもしれない。


そんな考えは浮かばない。


胸が苦しい。


息ができない。


蒼の隣は。


私じゃなかった。


「あぁ……」


涙が頬を伝う。


やっぱり。


私じゃだめだったんだ。


そして。


里穂は小さく呟く。


「あぁ、遅かったんだ」





────バキッ


里穂の心にヒビが入る音がした。
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