アオハル×フラグ=恋。
我に返った時。

里穂は病院の待合室に座っていた。

時計を見ると、二十時を過ぎていた。

隣には父と母が座っている。

「えっ……私……」

そこで。

里穂の脳裏にあの光景が蘇った。

体育倉庫。

倒れてくる棚。

血を流して倒れる蒼。

「っ!」

里穂は勢いよく立ち上がる。

「ねぇ!蒼は!?蒼はどうなったの!?」

「ねぇ!!」

里穂父「里穂、落ち着きなさい」

父が肩を掴む。

真っ直ぐ里穂を見る。

「蒼……」

声が震える。

瞳から涙が零れ落ちる。

「蒼は……」

里穂父はゆっくり頷いた。

里穂父「里穂を助けてくれた平井くんなら、命に別状はないよ」

その言葉を聞いた瞬間。

張り詰めていたものが少しだけ緩む。

里穂父「今は病室のベッドで寝ている」

里穂母「平井くんのお母さんも付き添ってくれてるわ」

「……そっか」

里穂は椅子へ座り込む。

全身から力が抜けていく。

よかった。

本当によかった。

その安心と同時に別の感情が押し寄せてきた。

「私のせいなの」

ぽつりと呟く。

父と母が里穂を見る。

「私が蒼の手を振り払って」

「勝手によろけて」

「それを蒼が守ってくれた」

あの時を思い出す。

『西尾は俺が絶対守るよ』

あの日、初めて蒼が守ってくれた日。

顔を真っ赤にしながら言ってくれた言葉。

そして体育倉庫でもまた、守ってくれた。

自分が怪我をしてまで。

里穂は唇を噛む。

気づいていた。

本当はずっと前から。

気づいていた。

この気持ちが何なのか。

分からないふりをしていただけだった。

特別な人。

そんな言い方で誤魔化していただけだった。

だって認めてしまったら。

今の関係が壊れそうで怖かったから。

でも。

もう誤魔化せない。

蒼が怪我をしたあの瞬間。

頭が真っ白になった。

ただ怖かった。

蒼を失うことが。

どうしようもなく怖かった。

里穂の目からまた涙が溢れる。

父が優しく頭を撫でた。

里穂父「平井くんってそんなにいい相手なのか?」

「え?」

里穂父「恋愛とか興味ないって言ってた里穂が」

里穂父「こんなに泣くなんてな」

里穂は少し考える。

そして小さく笑った。

「うん」

「二回も私を守ってくれた人」

里穂父「ほぉ」

「優しいし」

「かっこいいし」

「一緒にいると楽しいし」

言葉が止まらない。

気づけば蒼のことばかり話していた。

父と母は顔を見合わせる。

里穂母「重症ね」

「なっ!」

顔が熱くなる。

里穂父は楽しそうに笑った。

里穂父「いつの間にか、か」

里穂は小さく頷く。

「うん」

「いつの間にか」

そして。

今までずっと言えなかった言葉を口にした。

「好きになってた」

静かな待合室。

もう他に人はいない。

その言葉だけが小さく響いた。

父は少し驚いた顔をしたあと。

優しく笑った。

里穂父「そっか」

里穂母「お父さんなんてもっと酷かったわよ」

「そうなの?」

里穂父「いやまぁ……」

苦笑いする。

里穂母「高校の時なんて空回りしまくってたからね」

「え?」

里穂母「結局付き合ったの卒業して十年後よ」

「じゅ、十年!?」

里穂父「しかも偶然東京で再会してからだからな」

「嘘でしょ……」

里穂母「さらに結婚したのは三年後」

「十三年!?」

里穂は目を丸くする。

父は笑った。

里穂父「それでもずっと好きだったぞ」

里穂母「はいはい」

呆れたように笑う母。

けれどどこか嬉しそうだった。

里穂父は改めて里穂を見る。

里穂父「でもさ」

「ん?」

里穂父「今の里穂なら分かるんじゃないか?」

「……」

里穂父「このまま平井くんに何も伝えなかったら」

里穂父「ずっと後悔するんじゃないか?」

里穂は目を閉じる。

蒼が他の女の子と歩く姿。

楽しそうに笑う姿。

その隣に自分がいない未来。

胸が締め付けられる。

嫌だった。

考えるだけで苦しい。

「……後悔する」

里穂父「でしょ?」

父は優しく笑う。

里穂父「だったらちゃんと仲直りしてきなさい」

里穂父「そして自分の気持ちを伝えておいで」

里穂は小さく頷いた。

その時だった。

────ガラララ。

病室の扉が開く。

全員がそちらを見る。

中から出てきたのは蒼の母親だった。
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