アオハル×フラグ=恋。
その姿を見た瞬間。

里穂は立ち上がった。

そして勢いよく駆け寄る。

「すみませんでした!!」

深々と頭を下げる。

蒼母はきょとんとした顔をした。

蒼母「え?」

「私のせいなんです!」

「私が転んで」

「蒼くんが助けてくれて」

「だから……」

声が震える。

涙も出そうになる。

蒼母はしばらく里穂を見ていた。

そして。

ふっと笑った。

蒼母「あなたが西尾里穂さん?」

「は、はい」

蒼母は一歩近づく。

そして。

まじまじと里穂の顔を見つめた。

蒼母「わぁ……」

「え?」

蒼母「とっても可愛らしい顔ね!!」

「へ??」

予想外の言葉だった。

里穂は目をぱちぱちさせる。

蒼母は楽しそうに笑う。

蒼母「蒼ね」

蒼母「転校初日から里穂ちゃんの話ばっかりしてたのよ」

「ええっ!?」

里穂の顔が一気に赤くなる。

家で?

私の?

心臓が跳ねる。

顔が熱い。

蒼母「だからどんな子か会ってみたかったの」

蒼母は満足そうに頷いた。

蒼母「なるほどねぇ」

蒼母「これは確かに蒼が夢中になるわ」

「む、夢中!?」

里穂は今にも湯気が出そうだった。

里穂父は思わず咳払いをする。

蒼母はそんな里穂父を見る。

そしてニヤリと笑った。

蒼母「先輩の娘だなんて信じられませんね」

そう言って舌を出す。

里穂父「いや、まぁ、うん……」

珍しく歯切れが悪い。

里穂は首を傾げた。

「知り合いなの?」

里穂父「いや……その……」

蒼母「知り合いというか」

蒼母「昔からお世話になった先輩よね?」

蒼母は意味深に笑う。

里穂父は露骨に目を逸らした。

その横で。

里穂母の笑顔が少し怖くなっている。

里穂「……?」

何かある。

絶対ある。

けれど聞かない方がいい気がした。

蒼母「航太先輩」

蒼母「桃花さん」

蒼母は二人を見た。

蒼母「ちょっと外で話しましょ」

里穂父「え?」

里穂母「へぇ?」

空気が一瞬だけ凍る。

蒼母は気にせず笑った。

蒼母「積もる話もありますし♪」

そう言って二人を連れて歩き出す。

そして。

数歩進んだところで振り返った。

蒼母「蒼ならまだ寝てるけど」

里穂の胸がドキッと鳴る。

蒼母「そのうち起きると思うわ」

優しい笑顔。

蒼母「だからそんなに落ち込まなくていい」

蒼母「蒼のそばにいてあげてね」

そう言い残して。

三人は廊下の向こうへ消えていった。

静かになる。

里穂だけが残された。

目の前には303号室。

病室のプレート。

その向こうには蒼がいる。

里穂は扉を見つめる。

心臓がうるさい。

ドクン。

ドクン。

ドクン。

今なら分かる。

体育倉庫で蒼が倒れた時。

どうしてあんなに怖かったのか。

どうして涙が止まらなかったのか。

どうして今もこんなに胸が苦しいのか。

全部。

分かってしまった。

「蒼……」

小さく名前を呼ぶ。

そして。

里穂はゆっくりと病室の扉へ手を伸ばした。
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