アオハル×フラグ=恋。
菜々子は学校の最寄り駅から家へ帰るため、電車に乗った。

窓の外をボーッと眺める。


里穂達とは離れたくない。

大好きだから。


でも最近は、いつも良くないことを考えてしまう。


────ブブッ


携帯の着信を知らせる短いバイブ音。

手に持っていたスマホが小刻みに震える。

画面を見ると、一枚の写真が送られてきていた。

顔を真っ赤にして迫ってくる里穂の写真。


好桜

『帰り、たまたま一緒になったりほちゃんです!蒼くんのこと質問する度に顔真っ赤にしてて可愛かったです』


もう質問するのやめろー!と叫びながら迫ってくる里穂が簡単に想像できる。

思わず口元が緩んだ。


「人の気も知らないで!」


菜々子は小さくトーク画面にツッコむ。


どんなに妬んでも。

どんなに羨ましくても。


嫌いになることなんて絶対に出来ないな。


里穂の写真を見ながらそう思った。


スマホを閉じる。

そして再び窓の外へ目を向けた。


その時だった。


────サワッ


「えっ……」


足に何かが触れた感触。


帰りの電車。

人はそこそこ多い。


たまたま誰かの荷物か何かが当たっただけ。


そう思った。


しかし。


────サワワッ


また。


今度ははっきりと。


何かが足を撫でた。


「これ……」


窓ガラスに映る自分。

その後ろ。


見知らぬ男が立っていた。


「えっ、ちょ……」


────ガタン!


電車が大きく揺れる。


その瞬間。


男はよろけたフリをして菜々子に身体を押し付けてきた。


ちっ……痴漢……?


頭が真っ白になる。


足を触る手が。

少しずつ。

少しずつ上へ上がってくる。


声を出そうとする。


助けて。


やめて。


そう言いたいのに。


声が出ない。


まるで声の出し方を忘れてしまったみたいだった。


そこで初めて。


全身が震え始める。


何も出来ない。


身体が動かない。



ぎゅうぎゅうの満員電車。


男はさらに距離を詰めてくる。


菜々子の瞳に涙が浮かんだ。


怖い。


どうすることも出来ない。


男の手が。


制服のスカートの中へ入ろうとした、その時。


???「ちょっとすいませんね」


低い声が聞こえた。


そして。


誰かが菜々子と男の間に割って入る。


「え……?」


触れていた手が消えた。


菜々子は窓の反射で後ろを確認する。


「うわっ……」


ぎゅうぎゅうの車内。


痴漢の姿は消えていた。


代わりに。


割って入ってきた男が立っている。


菜々子を守るように。


覆い被さるように。


びっくりしたのは身長だった。


180センチは余裕で超えている。


そんな風に見える。


車内の吊り革がやけに低く見えた。


???「大丈夫だった?」


優しい声。


???「もう大丈夫。」


菜々子はその言葉を聞いた瞬間。


張り詰めていたものが切れたように。


涙が溢れそうになった。
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