アオハル×フラグ=恋。
   *


始業式が始まってからも、
里穂はなんだか落ち着かなかった。


広い体育館。

並べられたパイプ椅子。

壇上では校長先生が、
眠たくなるような話を続けている。


でも、
内容は全然頭に入ってこない。


恋愛フラグ。

転校生。

隣の席。


さっきから、
菜々子たちの言葉ばかり頭をぐるぐる回っていた。


恋ってなんだろ。


ふと、
そんなことを考える。


人を好きになるって、
どういう感じなんだろう。


お父さんとお母さんのことは大好きだ。

菜々子たちといる時間も楽しい。

でも、
みんなが言ってる“好き”って、
きっとそういう意味じゃない。


ドキドキするとか。

会いたくなるとか。

隣にいるだけで嬉しいとか。


そういうやつ。


正直、
里穂にはよく分からなかった。


恋愛の話を聞くのは好き。

漫画もドラマも普通に見る。

でも、
自分が誰かを好きになる想像だけは、
なぜか全然できない。


……まぁ、いっか。


今までだって、
特に困ったことはなかったし。


毎日楽しい。

友達もいる。

それで十分。


里穂はぼんやりと、
体育館の天井を見上げる。


その時。


トンッ


里穂の肩になにか触れた。


見ると、たまたま隣に居た蒼が里穂の肩をつついたようだった。

「なっ、何?」

蒼「いや、なんか始業式からそんな難し顔で何考えてんのかなって思って」


蒼は短くそう言って、まっすぐこっちを見る。

「はっ!べっ、別になんでもいいでしょ」


里穂は前を向く。

蒼は少しだけ里穂の顔を見つめたまま、満足そうに前を向き直した。




すると、
少し離れた列にいる菜々子が、
めちゃくちゃニヤニヤしてこっちを見ていた。


やめろ。


好桜まで口元押さえてるし。

愛華なんて、
また親指立ててる。


なんなのあいつら。


里穂は小さくため息を吐いた。


   *


キーンコーンカーンコーン。


昼休みのチャイムが鳴った瞬間、
教室が一気に騒がしくなる。


「腹減ったー!」

「購買行くやつー!」

「ねぇ席替えまだかな!」


新学期独特の、
少し浮ついた空気。


里穂は机に突っ伏しながら、
ぐーっと伸びをする。


「んあー……疲れた……」


菜「りほりほ」

「んー?」


振り向くと、
菜々子がニヤニヤしていた。

嫌な顔だ。


菜「静かイケメンとはどう?」

「その呼び方なに」


好「女子、ずっと見てましたもんね」

「まぁ……たしかに目立ってはいる」


里穂がそう言うと、
菜々子がさらに顔を近づけてくる。


菜々子「で?」

「なにが」

菜々子「ときめいた?」

「だからなんでそうなるの!?」


里穂の声に、
近くの男子まで笑い始める。
笑うと言うより、ハラハラしたような表情でこちらを見ている。

「もうっ……」


恥ずかしくなって前を向くと。


ちょうど、トイレから戻ってくる蒼と目が合う。

里穂は慌てて目を逸らす。


なぜか里穂の方が変に意識してしまっていた。


……いやいや。


別に、
なんでもないし。
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