アオハル×フラグ=恋。
蒼は席へ戻ると、
コンビニの菓子パンを取り出した。

「あの、平井くん」

蒼「ん?」


里穂は椅子を半分だけ振り返る。


「それ食べ終わったら、学校案内するから」

蒼「もがもがもが」

「へ?」


蒼は口いっぱいにパンを頬張っていた。

リスみたい。


「なに言ってるか分かんないんだけど」

蒼「あ、ごめん」


慌てて飲み込む。


蒼「いつでも大丈夫」

「じゃあ、それ食べたら急いで回ろ。午後の授業始まる前には終わらせたいし」

蒼「了解」


里穂は一旦前を向く。

そして、
ちらりと愛華たちの方を見ると。


三人そろって、
めちゃくちゃ手招きしていた。


「……うわ、あの顔むかつく」


ニヤニヤしてる。


里穂はやれやれと立ち上がり、
三人の元へ向かった。


菜「りほりほー、どこから案内すんのー?」



里穂はため息を吐く。やっぱりそのことか


「まだ決めてない。食堂とか?」

愛「いや、里穂じゃあるまいし最初に食堂行かんでしょ」

「“里穂じゃあるまいし”ってなに!?」

好「食いしん坊って意味だと思います!」

「全部言うな!」


里穂は好桜の頭をぐりぐりする。


好「いたいですぅ……」


涙目になりながら、
好桜は頭を押さえた。


菜々子「まぁ無難に保健室とか?」

「うるさい。保健室が最初であってたまるか」

菜々子「えー、恋愛ものの定番じゃん」

愛華「屋上も捨てがたいな」

好桜「体育倉庫とかもありますよね」

「だから恋愛イベント巡りするわけじゃないの!」


里穂は頭を抱える。


その時。


蒼「……普通に各教室とか?」


「えっ!?」


振り返ると、
いつの間にか蒼が後ろに立っていた。


「きっ、聞いてた!?」

蒼「まぁ、そこそこ?」


愛華・菜々子・好桜「おおおおぉぉぉ〜!!☆」


「いやっ、違っ! 言い出したのこの人たちだから!」


急に恥ずかしくなる。


「ほ、ほら! 行くよ!」


里穂は咄嗟に、蒼の手を掴んだ。


そのままずんずん歩き出す。


話を聞かれたのが恥ずかしかったのか。

それとも、
“フラグ”だなんだと騒がれ続けて、
変に意識してしまっているのか。


自分でもよく分からない。


ただ、
その場に居づらかった。


蒼「ちょ、おい……」


里穂はそのまま、
二年生の教室棟の一番端まで進む。


そして。


ガラララッ——。


立て付けの悪い扉を開き、
空き教室へ飛び込んだ。


「ふぅ……」


里穂は扉から顔だけ出して、
廊下を確認する。


「……よしっ」


追ってきてない。


安心して振り返ると。


後ろには、
少し怪訝そうな顔をした蒼。


「あっ」


そして、
自分がまだ蒼の手を掴んだままだと気づく。


「あっ、やばっ!! ご、ごめん私っ!」


慌てて手を離す。


誰もいない教室。

閉め切られたカーテン。

隙間から差し込む、
細い春の日差し。


静かだった。


蒼「びっくりした」


蒼は苦笑する。


蒼「急に手引っ張ってくから」

「いやこれは、その……なんというか……」


里穂は乾いた笑いで誤魔化そうとする。


蒼はそんな里穂を見ながら、
少しだけ口角を上げた。


蒼「誰もいない教室で、転校生と二人きり」


そして。


蒼「……これもフラグってやつ?」


いたずらっぽく笑う。


その瞬間。


ーーードクン。


里穂の心臓が、
妙に大きく鳴った気がした。
< 7 / 56 >

この作品をシェア

pagetop