演技派女優に本気で恋をしてしまった社長の誤算
CM撮影の日。

俺は伊藤萌奈と約束した通り、仕事を早く終わらせて撮影所に急いだ。

確か撮影は13時からだと聞いた。

間に合うだろうか。

「もう少しで着きますよ」

タクシーの運転手が、道路を右に曲がった時だ。

小さなビルが目の前に現れた。

「ありがとうございます」

タクシーから降りると、俺はビルの中に入った。

ビルの中には人が溢れかえっている。

よくもこんなに人が集まったものだと。

その中に待機している伊藤萌奈の姿を発見した。

声をかけていいものだろうか。

迷いながらも、挨拶程度なら迷惑にならないだろうと、彼女の肩を叩いた。

ふと振り向いた彼女が少し驚いた顔をした。

「槙田社長」

彼女は立ち上がって俺に頭を下げた。

「本当に来て下さったんですね」

「ええ、約束ですから」

一瞬だけ彼女の表情が和らいだのは、気のせいだろうか。
< 11 / 75 >

この作品をシェア

pagetop