演技派女優に本気で恋をしてしまった社長の誤算
「すみません。人に見られたらまずいんで」

俺は妙に納得して、頭を下げる。

確かに伊藤萌奈が男とデートしていたら、それだけで大騒ぎだ。

「えっと、どこに行きますか?」

俺も気を遣って敬語になる。

「この先に雰囲気のいいお店があるので、そこに行きましょう」

彼女は遠慮がちに向こう側を指差した。

「はい、そこにしましょう」

たぶん彼女の肩に手を回す事も、手を繋ぐこともできない。

芸能人とデートするというのは、こういう事かと悟った。

やがて俺達はレストランに入った。

彼女の雰囲気に似合うお店だ。

「2名様ですね」

店の定員は伊藤萌奈に気づいていない。

でも彼女は確実に俺の隣にいる。

そして俺達は、夜景の見える席に案内された。

「素敵なお店ですね」

「気に入った?」

彼女はにこっと微笑みを浮かべた。

「今日は、急に誘ってしまってごめんなさい」

「いや、嬉しかったよ。」

本当は会いたかった。

彼女に会いたかった。
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