余所者-よそもの-
ふーっ、ふーっ、と変な呼吸が耳につく。
走りたい。
逃げたい。
せめてじたばたしたい。
止まっていたくない。
たまらず身体を動かせば、ユキは片手で私を抱き留めた。
強く抱く腕から、動くなという意志が伝わってくる。
背中を優しくさする手から、落ち着けという温度が伝わってくる。
くっついた胸から、ド、ド、ド、ド、と自分の心臓の鼓動が跳ね返ってくる。
くっついた時には冷たいと感じた濡れた服が、体温に温まる。
気がつけば、苦しかった呼吸は随分と楽になっていた。
あれ。
私いま、なにしてるんだっけ。
「どんなヤツ?」
耳元で小さな声で尋ねるユキに、顔を上げようと思うけど上がらない。
耳に当たる固い胸板からユキの落ち着いた心臓の音を聞いた。
「追われてるんでしょ」
そう言われて、可動範囲内で頷く。
「男だよね」
「はい…」
「後ろを走ってた」
きっと結構な距離を走ってきたはずだけど、後ろを振り切れてなかったことを知ってぞっとした。
呼吸から、もしくはくっつく心臓からバレたのか。
ユキは「大丈夫」と一言置いてから続ける。
「距離はあったよ、顔がわからない程度には。多分ここに入ったところは見られてない」
そしてとんとん、と私の背中を優しく撫でた。