余所者-よそもの-


「過去は捨てろ」

「過去を……捨てる?」

「あの男はもう、お前に何の関係もない」

「そんなの、できない」


ふるふると首を横に振った。
だって、全部覚えてる。

彼の日々。
嬉しかったことも、悲しかったことも。

だからこそ私の心は矛盾して苦しい。

彼と別れたい。
だけど、彼を無視することはできない。

どうしてだろう。
どうしてこんなに私の心はちぐはぐなんだろう。


「それは、お前が手放そうとしないからだ」

「できないよ」

「お前が情を捨てない限り、男はお前に依存し続ける」


――手放す?

過去も、思い出も全部?


それができたとしたならば。

どれだけ楽だろうか。


「全部捨てろ」

「ぜんぶ……」


なんて、甘い誘惑だと思った。
後押しするように、いつかのユキの声だって頭の中に響く。

――『逃げれば』


瞳が揺れる。
自分の立っている足場がガラガラと崩れていく感覚がする。

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