余所者-よそもの-


「……ふざ、けんな……」
あ、と気づいた時には耳の横で風を切る音。

――ヒュ、と少女のやわらかな拳が商人に向かって飛んでいった。


商人はそれを片手で受け止め、鼻で笑う。


「これはなんの真似だぁ?」

「返せ……かえ、せぇぇ……!」


「本当のパンチってやつを教えてやるよ」


そう言って、見せつけるように丸められた拳と、張り付けた笑み。

――ヤバい、これは殴られる。

私はなりふり構わず、男を突き飛ばした。


「ああ……!?」

途端、殺意が少女から私へと移る。
素早く迫った手に、腕を掴まれた。


「あんまりナメてっと……」

「……放して!」


振りほどこうとデタラメに抵抗した。

するとその拍子、


「……あ」

汗でツルッと滑った私の手が、弦に弾かれた弓矢のように、勢いよく男の顔へと飛んでいった。


パシ、と軽い音の割に男が怯んだのは、そこが急所だったから。

商人は鼻をきつく抑えて、今度こそ視線で私を殺しにきた。


「オイオイオイオイ……洒落になんね…だろ、まじで……」

下から上へ、背筋に冷たいものが通る。

< 214 / 276 >

この作品をシェア

pagetop