余所者-よそもの-



私たちも表に出れば、街にすっかりと昇る朝日。
ユキは一仕事終えたように、軒先で伸びをした。


「ユキさん、私たち……とりあえず、助かったんでしょうか?」

「そうだね」

……それはよかった。
にしても。


「一体、なにが起こったんですか?なにがどういうことだか、全然わからないんですけど」


領収書だと思っていたあの紙。
よくよく見れば”質札”と、たしかに書かれていた。


「私、てっきり売ったんだと思ってました」

「あのジジイの生業(ナリワイ)は質屋だ。特に、余所者がジジイのシマに住まう上で挨拶として持って持ち込む品はこの街で面倒を見てもらうための挨拶金。いわば、みかじめ料」

「そうだったんだ……」

あの時計にそんな意味があっただなんて。


「余所者への通過儀礼だよ。それをあのジジイ、お前が無欲で何も知らないことをいいことに、かなりの安値で質入れさせた上に『売ったもの』とさえ思い込ませて身銭にしたんだ」

「それってバレるとそんなにマズイことなんですか?」

「マズイね。露天街は規律に煩い。街の人間の商売から出た利益を集めている側の人間が、質入れの商品を横流しにしたばかりか、『一億で買い戻す』と言った俺との取引をパァにしたんだ。立派な規律違反に、組合の大きな利益を逃す大失態。表に出せる話じゃない」

「なんか、ちゃんとした会社みたい」

「この街で唯一、規律という信頼で成り立っている区画だからね」


どうして八賀は私を騙したんだろう。

ユキの言うように、たしかに高値で売ろうとは思っていなかったし、何も知らないのだってそりゃそうだ。
八賀に挨拶に行ったのはこの街に来てすぐのことだったから。

……すぐに街から居なくなる人間だと思ったのかな。
そう思うと、なんだか少し悔しい。

< 232 / 276 >

この作品をシェア

pagetop