恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
 翌朝、亜佑美は朝陽に車で会社まで送ってもらった。

 会社のエントランス前で車を降りると亜佑美は少し申し訳なさそうに笑う。

「ありがとう。送ってくれて」
「いえ。それじゃあ仕事が終わったら連絡しますので、中で待っていてくださいね」
「……本当にごめんね」

 そう言うと、朝陽は穏やかに首を横へ振った。

「謝ることないですよ。俺がしたくてしてることですから。それじゃあ、また後で」
「うん。気をつけてね」
「ありがとうございます」

 軽く手を振り合い、それぞれの一日が始まった。

 亜佑美は午前中の仕事を順調にこなし、昼休みになると同僚たちと会社近くのカフェへ向かう。

 外へ出るのは少し抵抗があったものの、周りに心配かけまいと断ることはしなかった。

 食事を終え、談笑しながら会社へ戻る途中だった。

 ふと誰かに見られているような気がして足を止める。

 周囲を見回しても、それらしい人物は見当たらない。

「亜佑美、どうかした?」
「あ、ううん、何でもない」

 同僚に声を掛けられて何でもないと答えたものの、背中にまとわりつくような視線は最後まで消えずに不安だけが残ってしまう。

 その後も仕事は滞りなく終えたが昼間の出来事が頭から離れず、どこか落ち着かないまま終業時間を迎えると、ほぼ同じタイミングで仕事を終えたらしい朝陽から電話が入った。

『お疲れ様です、亜佑美さん』
「お疲れ様」

 そう返事をした直後、電話の向こうで朝陽がわずかに間を置く。

『……どうかしましたか?』
「え?」
『何だか声のトーンが低い気がして』

 その一言に亜佑美は驚いた。

 自分では普段通りに話したつもりだったからだ。

「実は、お昼休みに外へ出た時、誰かに見られてるような気がして……。気のせいかもしれないけど、何だか怖くなっちゃって」

 朝陽には隠せないと思い正直に打ち明けると、朝陽の声色がすぐに真剣なものへと変わる。

『そんなことがあったんですね……。とにかく、今からすぐ迎えに行きます』

 そして、念を押すように続けた。

『俺が連絡するまでは絶対に建物の外へ出ないでください』
「うん、分かった」
『すぐ行きますから』

 電話が切れた後、亜佑美は帰り支度を終えると休憩室で朝陽の迎えを待っていた。
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