恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
 三十分ほどが経ち、朝陽から、「着いた」と連絡を受けた亜佑美は休憩室を出てエレベーターへ向かった。

 ちょうどその時、同期で営業担当の北丘(きたおか) 界人(かいと)と鉢合わせる。

「木葉じゃん、今帰り?」
「うん。北丘くんも?」
「ああ。報告書纏めてた」
「そっか。お疲れ様」

 二人は自然と並んでエレベーターに乗り込む。

「つーか、木葉がこんな時間まで会社にいるの珍しくね? いつも終わったらすぐ帰るじゃん」
「あー、うん。今日は彼が迎えに来てくれることになってて」
「彼氏……そういや、年下と付き合ってるって少し前に天宮(あまみや)が騒いでたな」
(みなみ)が? もう……あの子すぐ言いふらすんだから」
「さすが木葉だな。前は確か年上だったじゃん。今度は年下まで誑かしてんのか?」
「言い方! 誑かしてなんかないです」
「どーだか」

 そんな他愛のないやり取りを交わしているうちにエレベーターは一階へ到着し、降りた二人はそのまま並んで正面玄関から外へ出た。

 その様子を路肩に車を停めて待っていた朝陽がバックミラー越しに目にする。

(亜佑美さん……誰と居るんだろう?)

 肩を並べ楽しげに言葉を交わしながら歩いてくる二人。

 同じ職場の人間であることを頭では理解していても、その親しげな雰囲気を目の当たりにした瞬間、朝陽の胸の奥は小さくざわついた。

 そして、言葉に出来ない何とも言えない感情が静かに広がっていくのだった。
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