恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
 亜佑美の表情に少しずつ笑顔が戻ってきたのを見て、朝陽は胸をなで下ろした。

(アパートに着いた時は思い詰めた顔をしていたから……少し元気になってくれて良かった)

 そう思う一方で心の中の警戒は少しも解けてはいなかった。

 亜佑美が誰かにつけられていたと聞いた瞬間から、彼女を一人には出来ないと決めていた。

 そして今日は昼間にも視線を感じたという。

 偶然とは思えず、まだ安心出来る状況ではない。

 自宅を知られているかどうかまでは分からないし、亜佑美が今このマンションにいることを相手が把握している可能性も否定出来なかった。

(早く相手を突き止めないと危険だよな……)

 けれど、姿の分からない相手を捕まえるのは簡単なことではなく、どう対処すべきか答えはでない。

 そんな中、料理が出来上がると二人で食卓を整えて向かい合って席に着く。

「いただきます」

 そう言葉を交わして食事が始まった。

 暫くして朝陽が箸を置き、おもむろに口を開く。

「……亜佑美さん、昼間に感じたっていう視線のことなんですけど」
「……うん?」
「それって、お店を出た時だけだったんですか?」

 朝陽の問い掛けに亜佑美は記憶を辿るように少し考えると小さく頷いた。

「うん。会社を出た時も、お店の中にいる時も特に何も感じなかったかな……。会社に戻る途中で急に視線を感じたの」
「そうですか……」

 それを聞いた朝陽は難しい表情で考え込むと、亜佑美はぽつりと呟いた。

「……やっぱり、相手を特定するのは難しいよね」
「そうですね。今の段階では何とも言えません」

 少しの沈黙の後、亜佑美は意を決したように口を開く。

「それなら、もう一度……私が一人になってみた方が相手を見つけられるのかも……」

 その言葉が終わるより早く朝陽はきっぱりと言い切った。

「駄目です。それは危険すぎます。そんなこと、許可できません」

 真っ直ぐな眼差しには一切の迷いがなかった。

「亜佑美さんを危険に晒すようなことは絶対にさせません」
「……朝陽くん」

 彼の強い口調に驚きながらも、その言葉には自分を守ろうとする真剣な想いが込められていることが伝わってくる。

「今は焦らず、様子を見ましょう。職場ではできるだけ誰かと一緒に行動してください」
「……うん。分かった」

 相手が分からない以上落ち着かない日々はまだ続くだろうけれど、朝陽が居てくれれば乗り切れる気がして、亜佑美の不安な気持ちは少しだけ薄れていた。
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