恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
「それじゃあ、帰りは陽向に頼んでいますから」
「うん、ありがとう」
「なるべく早く帰るので」
「待ってる。気をつけて行ってきてね」
「はい。それでは、行ってきます」

 朝、朝陽は亜佑美を職場まで送り届けると、そのまま駅へ向かうことに。

 本当は亜佑美のことが気掛かりだった。

 けれど、帰りは陽向が迎えに行ってくれる。

 そう自分に言い聞かせて気持ちを切り替えた朝陽。

 一方の亜佑美も不安が完全に消えたわけではなかったものの、陽向が迎えに来てくれるという安心感が張り詰めていた心を少しだけ軽くしてくれていた。

 日中はいつも通り仕事をこなし、昼過ぎには朝陽から、「こっちは順調です」とメッセージが届く。

 その一文を見て亜佑美は胸をなで下ろした。

 そして定時を迎えて退勤の準備を済ませた亜佑美は一人一階へ降りて会社の外へ出る。

 その瞬間だった。

「木葉さん」

 ふいに名前を呼ばれて亜佑美が足を止めて振り返る。

「……えっと?」

 そこに立っていたのは取引先の営業担当者だった。

 人通りの多い場所だったこともあって危険を感じることはなかったものの、呼び止められたことに亜佑美は戸惑いを隠せない。

 男は一歩近づき、どこか思い詰めたような表情で口を開く。

「木葉さん。少し、お話ししたいことがあるんですけど……」

 その言葉が終わるか終わらないかというタイミングで男の背後から低く鋭い声が響いた。

「誰だよ、アンタ」

 亜佑美が視線を移すと、迎えに来ていた陽向がいつの間にか男のすぐ後ろへ立っていた。

 長身の陽向が男を鋭い眼差しで見据えると、その迫力に男は思わず肩を震わせながら一歩後ずさる。

 先程まで話しかけようとしていた勢いは消え失せ、どこか怯えたような表情を浮かべていた。
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