恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
「お、お前こそ何なんだよ?」

 男は明らかに怯えた様子で言い返すと、陽向は怪訝そうに眉をひそめ、隣に立つ亜佑美へ視線を向ける。

「亜佑美サン、この人、知り合い?」
「うちの会社の取り引き先の営業担当の人……ってだけで、知り合いってほどじゃ……」

 その答えを聞いた陽向は男へ向き直り口調を強めた。

「へえ。取り引き先の人が何の用? もしかして、アンタがストーカーの犯人?」
「ち、近寄るな!」

 男は顔を青ざめさせると勝ち目は無いと悟ったのか、それ以上何も言わずに逃げるように走り去る。

 その後ろ姿を見送りながら陽向は呆れたように息を吐いた。

「何なんだよアイツ……平気?」
「う、うん……ありがとう」

 安堵したように礼を口にする亜佑美だったが、陽向は先程の男の様子を思い返しながら腕を組んだ。

「アイツ、亜佑美サンに気があるよな」
「え?」

 思いがけない言葉に亜佑美は目を丸くする。

「さっき話しかけようとしてただろ。前から言い寄られたりしてないのかよ?」
「ううん、そういうのはないよ。会社で何度か会ったことはあるけど、軽く会釈するくらいで……」

 その返事を聞いた陽向は少し考え込み、ふと気になることに思い至る。

「でもさ、普段は話しかけてこないのに、今日に限って声を掛けてきたんだろ?」
「……うん」
「アイツ、今日兄ちゃんが迎えに来ないって知ってたんじゃないか? 最近はずっと兄ちゃんが送り迎えしてるんだろ? ストーカーの犯人ならそれを知ってるはず。彼氏が迎えに来るって分かっててわざわざ話し掛けたりしないよな」
「それは、そう、かもしれない……けど」
「ただ、兄ちゃんが来れない代わりに俺が迎えに来ることは知らなかったから焦ってた」
「…………」
「兄ちゃんが来ないことだけは知ってたから、『今日の仕事終わりなら話せる』って思って近づいてきたんじゃねぇの?」

 その推測を耳にした瞬間、亜佑美の背筋に冷たいものが走る。

 男は偶然そこにいたのではない。

 もし本当に朝陽が来ないことを知った上で待ち伏せしていたのだとしたら――そう考えた途端、亜佑美の胸に言いようのない恐怖がじわりと広がっていった。
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