恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
 少しでも早く帰ってきてくれると思っていた亜佑美は帰るのが少し遅くなりそうというメッセージを見て少しだけ寂しさを感じたものの、それでも仕事であれば予定が延びることもあると自分に言い聞かせて気持ちを切り替える。

「朝陽くん、帰るの少し遅くなりそうだって……」

 メッセージの内容を陽向に伝えると不思議そうに首を傾げた。

「マジかよ。何かあったんかな……」
「ちょっと電話して聞いてみるね」

 メッセージより早いと思い亜佑美が電話を掛けると朝陽はすぐに応答した。

「もしもし、今大丈夫?」
『はい、大丈夫です。亜佑美さんは陽向と合流できました?』
「うん、もうマンションに着いたよ」
『それなら良かったです』

 安堵した様子の声を聞き、亜佑美は本題を切り出す。

「それで、遅くなりそうって、何かあったの?」
『いえ、トラブルじゃないんですけど……そっちに戻ったら先輩に飲みに誘われてしまって。いつもお世話になっている人なので断れなくて……すみません』
「そっか、それなら仕方ないね。付き合いも大切だもん」
『ありがとうございます。それでも、なるべく早く帰りますから』
「無理しないでね。私は大丈夫だから」
『あの、弟に代わってもらってもいいですか?』
「うん」

 亜佑美はスマートフォンを陽向へ手渡す。

「何?」
『悪いけど、今日は泊まってくれるか? 先輩に飲みに誘われてすぐには帰れないし、飲んだら車を出せないから送ってやれないし』
「俺は別に構わないけど、兄ちゃんはそれでいいのかよ?」
『頼んでるのは俺だから、駄目なら最初から言わないよ』

 陽向は少し考えた後で小さく肩をすくめた。

「……まあ、それならいいけど」

 了承を得た朝陽は安堵し、再び亜佑美へ電話を代わるよう頼んだ。

『陽向に泊まってもらうことで話がつきました。すみませんけど、よろしくお願いします』
「うん、分かった。それじゃあ、またね」

 電話を切った亜佑美は仕事の付き合いなら仕方がないと理解しながらも、寂しさを胸に抱えたまま朝陽の帰りを待つことにした。
< 117 / 161 >

この作品をシェア

pagetop