恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
「陽向くん、ご飯何にしようか?」

 キッチンへ向かいながら亜佑美が振り返ると、陽向は少し考えるように顎へ手を当てた。

「そうだな……出前でも取る?」
「有り合わせで良ければ何か作るけど……」
「亜佑美サンが大変じゃねぇなら、俺はどっちでもいい」

 その言葉に亜佑美は冷蔵庫の中を確認する。

「じゃあ……チャーハンと卵スープくらいならすぐ作れるけど、どうかな?」

 陽向はぱっと表情を明るくした。

「チャーハン、俺の大好物」
「そっか。それじゃあチャーハンにするね。あ、もし良かったら、先にお風呂入ってきてもいいよ?」
「あー、じゃあそうすっかな」

 そう言うと陽向は浴室へ向かい、ほどなくしてシャワーの音が聞こえ始めると、亜佑美はエプロンを身につけて夕食の支度を始めた。

 ご飯は冷凍した物があるので解凍し、フライパンに油をひいて刻んだ具材を炒め始めた、その時だった。

 ピンポーンと突然インターホンが鳴り響く。

(誰……?)

 動きを止めて恐る恐るモニター付きのドアホンを確認するけれど、画面には誰の姿も映っていなかった。

(間違い? それともセールス……?)

 首を傾げながらキッチンへ戻ろうとした、その直後、再びインターホンが鳴った。

 慌ててモニターを確認するが、やはり画面には誰もいない。

(まさか……あの人?)

 その考えが頭をよぎった瞬間、全身から血の気が引いていく。

 身体が小刻みに震えて呼吸まで浅くなる。

(陽向くん……まだお風呂だし……)

 玄関の鍵もチェーンも掛けてある。

 それでも、胸を締めつけるような恐怖は消えない。

 そして、追い打ちをかけるように三度目のインターホンが鳴った次の瞬間、浴室のドアが開くや否や、髪をタオルで拭きながら出てきた陽向は上半身裸のまま玄関へ向かうと静かに覗き穴から外を確認するが――そこには誰の姿もなかった。

 舌打ちが静かな玄関に響く。

「チッ……嫌がらせかよ。舐めやがって」

 苦々しく吐き捨てると陽向は振り返ってリビングへ戻る。

 そこには恐怖で立ち尽くしたまま動けなくなっている亜佑美の姿があった。

「陽向……くん……」

 陽向は亜佑美の前まで歩み寄ると、少しだけ表情を和らげて安心させるような声で尋ねた。

「……大丈夫かよ?」
「……う、うん、ごめん、大丈夫……」

 心配かけまいと作り笑顔を浮かべて「大丈夫」と答える亜佑美に陽向は、

「無理すんなよ。とにかく、兄ちゃんが帰るまでは俺が守るから、心配すんな」

 亜佑美を気遣い、そんな優しい言葉を掛けたのだった。
< 118 / 161 >

この作品をシェア

pagetop