恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました

 その日の昼休み、亜佑美はいつものように同僚たちと連れ立って昼食を食べる為に会社の外へ出た。

 すると、普段なら昼休みを一緒に過ごすことなどほとんどない界人が後ろから声をかけてきた。

「俺も一緒にいい?」
「北丘が? 珍しいね」
「まあ、たまにはいいだろ」
「もちろん、いいよね?」
「うん」

 界人も加わり近くのカフェへ向かった。

 昼食の間はいつもと変わらない様子で亜佑美も界人も安心していたのだけど、店を出て会社へ戻ろうとした時だった。

 ふいに界人が亜佑美の横へ並び、周囲には聞こえないほどの小さな声で呟いた。

「……尾けられてる」
「え?」

 思わず立ち止まりそうになった亜佑美に界人は前を向いたまま続けた。

「振り返るな」

 その一言で亜佑美の背筋が凍る。

「…………誰か、分かる?」
「いや、分からない。けど、さっきからずっと後ろにいるんだよ、多分偶然じゃない」

 界人の声は低く冗談を言っているようには聞こえなかったので、亜佑美は平静を装い前を向いたまま歩き続けた。

 心臓の鼓動だけが大きくなっていくのを感じ不安になる亜佑美だけど、

「大丈夫、何かしてくるようなら今は俺が守ってやるから」

 界人のその言葉に安心して何とか会社に戻ることが出来た。

 その後、同僚たちと別れて界人と二人きりになる。

「帽子被ってマスクしてたから顔は分からねぇけど、背は低くめで小太りってとこだな。そういう風貌の男に心当たりは?」
「…………ない」
「そっか……。とりあえず、この情報はお前の彼氏にも共有した方がいいな。教えておいてやれよ」
「う、うん……そうだね、ありがとう」

 こうして亜佑美は界人に言われた通り、朝陽に情報共有することにした。
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