恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
 仕事を終えた亜佑美が休憩室で朝陽が迎えに来るのを待っていると、スマートフォンが震えた。

 確認するとメッセージが届いていて、道路が混んでいて少し遅れそうだという。

「まだ帰らねぇの?」

 そこへ声をかけられて顔を上げると界人が立っていた。

「うん。彼が来るのを待ってるの。道路が混んでるみたいで少し遅れるって」
「ふーん」

 界人はそれだけ言うと亜佑美の隣に腰を下ろし、持っていた缶コーヒーのプルタブを開けて何気ない様子で口をつける。

「あのさ、お節介かもしれねぇけど、俺も何か協力出来ない?」
「え?」

 思いがけない申し出に亜佑美は目を瞬かせた。

「お前の彼氏じゃ勤務中まではどうにもならないじゃん? その点、俺なら助けられるし」
「確かに……そうだけど」

 亜佑美が戸惑いながら答えると界人は缶コーヒーを片手に苦笑した。

「まあ、彼氏からしたら面白くねぇかもしれないけどさ、ストーカー被害って甘く見てると危ねぇだろ。協力出来る人間は多いほうがいいと思うんだよな」

 その言葉に亜佑美は思わず息を呑んだ。

「……ありがとう。私が話したせいで、余計な心配かけてごめんね」
「別に、気にすんなよ」
「その……私としては事情を知っててくれる人が身近にいるのはすごく心強いから」

 亜佑美は一度言葉を切り、少しだけ考えてから続けた。

「だから、そのことも含めて彼にも相談してみるね」
「ああ」

 それから少しして亜佑美のスマートフォンに着信が入る。

「朝陽くん、お疲れ様」
『お疲れ様です。今、着きましたよ』
「ありがとう。あのね、朝陽くんと話したいって人がいるんだけど、少しだけいいかな?」
『話したい人?』

 電話の向こうから返ってくる声がほんの少しだけ低くなる。

「その……同期の男の子なんだけど……」

 亜佑美がそう告げると朝陽は一瞬黙った後、

『……分かりました。構いませんよ』
「ありがとう」

 朝陽の返答に亜佑美はほっと息を吐いた。

「それじゃあ今から一緒に降りていくね」
『はい』

 それだけ言って切られた電話。

 朝陽の鼓動は煩いくらいに騒がしい。

(あの男の人が、俺に何の話があるんだろ……)

 突然の展開に心を落ち着け、平静を装いながら亜佑美たちが来るのを待っていた。
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