恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
 いくつか候補が挙がったところで、どの辺りに住むのがいいかを話し合い始めた。

「私と朝陽くんの職場の中間くらいの場所で探せばいいかな?」

 亜佑美がそう提案すると朝陽は少し考えるようにしてから首を横に振った。

「いや亜佑美さんの職場近くにしましょう」
「え? でも……」
「俺は車でもバイクでも通えますから亜佑美さんの職場に近い方がいいです」
「そうかもしれないけど……」

 朝陽は一瞬だけ言葉を選ぶように視線を落とした。

「……心配なんです」
「え……」

 その一言に亜佑美の胸が小さく揺れる。

「今回の件はあの男が亜佑美さんを見かけたことから始まったじゃないですか。もちろん、会社から近くに住むからって全部を回避できるわけじゃないですけど、少しでもリスクは減らしたいんです」

 そう言って朝陽は亜佑美を真っ直ぐに見つめる。

「それに、会社から近い場所なら北丘さんが送ってくれるって言っていたので。お願いすることもできますし」
「え? 北丘くんに話したの? いつの間に?」

 その問いに朝陽は少しばつが悪そうに笑った。

「……その、同棲のことは少し前から考えていたので亜佑美さんが了承してくれたらすぐに動けるようにしておこうと思って。それで北丘さんにも相談していました」

 まさかそんなところまで準備してくれていたとは思わなかった亜佑美。

 自分が何も知らずにいる間にも朝陽は自分とのこれからを考えて出来ることを一つずつ準備してくれていたのだ。

「……すみません。勝手に話してしまって」

 申し訳なさそうに謝る朝陽に亜佑美は慌てて首を横に振った。

「ううん、そんなこと……そこまで考えてくれてたなんて知らなかったから驚いただけ。ありがとう朝陽くん」
「お礼なんてそんな。俺は彼氏なので亜佑美さんの安全を考えるのは当然のことですから」

 朝陽は当たり前のことを言うように穏やかな笑みを浮かべた。

 その言葉がじんわりと胸に染みていく。

 いつだっての自分のことを第一に考えてくれる朝陽の優しさが嬉しくて亜佑美の胸は温かなもので満たされていった。
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