恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
「クリーム付いてますよ」
「っ!?」

 そして口の端についていたクリームを朝陽が指で掬い取るその動作はあまりにも自然で、亜佑美の顔はみるみる熱を帯びて赤くなる。

「あ、藍島くん……!」
「木葉さんの方が子供っぽいじゃないですか」
「そ、そう……かも……」

 仕返しとばかりに返された言葉に上手く返せず、まともに目も合わせられない亜佑美。

 朝陽は何気なくやっているだけなのだろうけれど、その一つ一つが妙に近くて、それでいて新鮮で、亜佑美は意識してしまう。

(何これ。なんていうか藍島くんと居ると、ずっとドキドキしっぱなしで、こんなんじゃ身が持たないよ……)

 年下で、しかも恋愛慣れなんてしていなさそうな男の子に、こんなにも振り回されるなんて思わなかった亜佑美は冷めかけた紅茶を一口飲みながら、向かいに座る朝陽をちらりと盗み見る。

 朝陽はそんな亜佑美の視線に気づく様子もなく、パンケーキを、「本当に美味しいですね」と素直に笑って食べていた。

 その無邪気さが、余計にたちが悪い。

(絶対、何も考えてないよね……)

 クリームを取ったのだって、きっと自然にやっただけ。

 だからこそ厄介だった。

 そういうことに慣れている男なら警戒も出来るが、朝陽は違う。

 ただ純粋に真っ直ぐ距離を縮めてくるからこそ、亜佑美ばかりが意識してしまって勝手に胸が騒ぐ。

「木葉さん?」
「っ、な、何?」
「さっきから顔赤いですけど……暑いですか?」
「ち、違う! その、何でもないから!」

 亜佑美が慌てて否定すると朝陽は不思議そうに瞬きをした後、「そうですか、それならいいですけど」と素直に引き下がった。

 その反応にまた胸がざわつく。

(……もう、これって)

 この胸の高鳴りは、ただドキドキしているだけじゃない。

 一緒にいるだけで嬉しくて目が合うだけで落ち着かなくて、もっと話したいと思ってしまう。

(私、藍島くんに……)

 そこまで考えてしまった瞬間、亜佑美は誤魔化すように慌ててパンケーキを口へ運んでいった。
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