恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
 グラスの中で氷が小さく音を立てる。

 賑やかな笑い声が飛び交う居酒屋の一角で、木葉(このは) 亜佑美(あゆみ)は目の前の男たちを静かに値踏みしていた。

(この人、年収は悪く無さそうだけど何か理屈っぽい感じがなぁ。この人は顔が好みじゃないし……今話してる人は自分語りばっかりでウザい……)

「でさ、最近は投資とかも始めてて――」
「あ、そうなんですね」

 適当に相槌を打ちながら、亜佑美の意識はすでに別の相手へ向いていた。

 亜佑美は昔から男に困ったことがない。

 学生時代から告白された数は両手では足りず、社会人になった今もそれは変わらなかった。

 容姿は華やかで愛想も良い。

 距離感の詰め方も上手く、自然と人を惹きつける空気を持っている。

 だからこそ、周囲からはよく言われた。

『亜佑美ちゃんって絶対モテるよね』
『選び放題でしょ?』

 実際、その通りだった。

 食事に誘われることも、連絡先を聞かれることも日常茶飯事。

 付き合った人数もそれなりにいるし、恋愛経験だって豊富だ。

 けれど、その分だけ“見る目”も養われていた。

 口だけの男。

 最初だけ優しい男。

 自信ばかりで中身の伴わない男。

 そういうタイプは会話を数分交わせば大体分かる。

 だから亜佑美は恋愛に妥協をしない。

 付き合うなら顔も性格も良くて、ちゃんと頼れる男がいい。

 そして出来れば年収も安定していて自分を安心させてくれるような、そんな相手。

 その条件を効率よく満たすために、亜佑美は定期的に合コンへ参加していた。

 友人や知人に声を掛け、“ちゃんとした男”を集めてもらう。

 条件の良い男は待っているだけでは現れない。

 自分から探しに行くべきだと亜佑美は考えていた。

 そして今夜もまた、その“選別”の為にこの場へ来ている。

 だからこそ、その条件を満たさない相手には一切興味を持たない。

 ふと視線を横へ流した時、場の空気に少し馴染めていない男が目に入った。
< 2 / 20 >

この作品をシェア

pagetop