恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
 亜佑美の理想は、とにかくハイスペックな男の人。

 大人で余裕があって、恋愛にも慣れているような人だったはずだ。

 そもそも年下なんて恋愛対象として意識したこともなかったし、ましてやこんな風に振り回されるなんて思ってもみなかった。

 それなのに、隣に立つ朝陽からどうしても目が離せない。

 不器用なくせに真っ直ぐで、慣れていないのに一生懸命で、そのくせ時々無自覚に距離を縮めてくる。

 そんな一つ一つの行動に心を揺さぶられてしまう。

(……ほんと、理想と全然違うのに)

 それでも気になって仕方がないのだから、もうどうしようもなかった。

 亜佑美は誤魔化すようにスマートフォンを取り出すと、目の前の夜景へカメラを向ける。

 シャッター音と共に切り取られる無数の灯り。

 けれど本当は、この景色だけじゃなくて隣で、「綺麗ですね」と目を輝かせている朝陽との時間ごと残しておきたいと思ってしまう。

(……ずっと続けばいいのに)

 そんなことを考えてしまうくらいには、今が心地良いこの時間。

 すると同じように写真を撮っていた朝陽が、ふいにこちらを振り返る。

「そうだ」
「ん?」
「この夜景の写真とか、喫茶店での写真とか……SNSに載せてもいいですか?」
「え?」

 思わぬ確認に亜佑美は瞬きをした。

「なんでわざわざ聞くの? SNSなんて自由だよ?」

 そう言うと朝陽は少しだけ視線を泳がせた後、どこか照れくさそうに口を開く。

「その……木葉さんも載せるなら、被ってたら嫌かも……って思ったので」
「……!」

 それを聞いた亜佑美は思わずふっと笑みを零す。

「嫌なんてことないよ?」
「本当ですか?」
「うん。っていうか私も載せるけど、良いかな?」

 そう聞き返すと、朝陽はぱっと表情を明るくした。

「嫌なんて全然!」

 その笑顔が眩しくて亜佑美は少しだけ目を細めた。

 朝陽のSNSアカウントはまだ作りたてで、フォローもフォロワーも今のところ自分しかいない。

 そんな状況で同じ喫茶店、同じ夜景スポットの写真をほぼ同じタイミングで載せたら、見る人が見れば何かしら関係を勘繰るだろう。

 もしかしたら付き合っていると思われるかもしれない。

 けれど、不思議とそれを嫌だとは思わなかったしそれどころか、

(……そう思われても構わないかも)

 そこまで考えてしまった瞬間、亜佑美ははっと息を呑む。

 誤魔化しようもない程、はっきり理解してしまった。

 自分はもう、完全に朝陽に惹かれているということを。
< 22 / 90 >

この作品をシェア

pagetop