恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
 自覚してしまうと、その事実は思っていた以上に破壊力があった。

 さっきまで普通に話せていたはずなのに、今は隣にいるだけで変に緊張し、目が合えば逸らしたくなるし、少し近づかれるだけで心臓がうるさい。

(やばい……意識しちゃう……)

 亜佑美は誤魔化すように夜景へ視線を向けるが、隣の存在ばかり気になってしまう。

 一方の朝陽はそんな亜佑美の胸の内など知らず、「綺麗でしたね」と満足そうに笑っていた。

 その無邪気な笑顔がまたずるいと亜佑美は思った。

 暫く景色を眺めた後、朝陽が名残惜しそうに口を開く。

「……そろそろ戻りますか?」
「う、うん……そうだね」

 二人は展望デッキを後にし、駐車場へ向かって歩き出した。

 夜道は思ったより暗く、街灯はあるものの足元までは照らし切れず、しかも帰りは下り坂になっている。

 亜佑美が慎重に歩いていた、その時だった。

「あっ……!」

 小さな段差に気づかず足を取られ、身体がぐらりと傾いた瞬間、

「危ない!」

 咄嗟に伸びてきた腕が亜佑美の身体を支えた。

「……っ!」

 気づけば亜佑美は朝陽の胸元に寄りかかるような体勢になっていて、亜佑美の顔が一気に赤く熱くなる。

「だ、大丈夫ですか!?」
「う、うん……ご、ごめん……」

 慌てて離れようとする亜佑美に朝陽は心配そうに眉を下げ、

「下りだし、暗いですからね」

 そう言ってから少し躊躇うように右手を差し出す。

「あの、もし良かったら……掴まってくれて大丈夫なんで!」
「……!」

 差し出された手を見た瞬間、亜佑美の鼓動が大きく跳ねた。

 朝陽と手を繋ぐ、そう意識してしまい変に緊張する亜佑美だけど、転びそうになったのは事実だし、折角の厚意を無下にするのも忍びない。

「……それじゃあ、お言葉に甘えて……」

 少し悩んだ末に亜佑美は朝陽の手を取った。

 そして指に触れた瞬間、朝陽の手が思っていたより大きくて温かいことに気づいた。

「……っ」

 繋がれた手から熱が伝わってくるたびに、胸の奥が落ち着かない。

 そんな中、朝陽は亜佑美を気遣うように歩幅を合わせ、ゆっくり車までエスコートし、駐車場へ着くと繋がれた手が離れていく。

 その瞬間、亜佑美はほんの少しだけ寂しさを覚えてしまっていた。

「それじゃあ、帰りますか」

 車に乗り、シートベルトを締めたタイミングでの朝陽の言葉に亜佑美は静かに頷く。

「……うん」

 そして車が走り出し、窓の外には夜の街並みが流れていく中、

(もっと一緒に居られたら良いのに……)

 そんな気持ちを抱えながら亜佑美は揺れる車内でそっと窓の外を見つめていた。
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