恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
 すると、朝陽はふいにこう言葉を零した。

「……あの時、喫茶店で木葉さんのスマートフォンにメッセージが届いたじゃないですか」

 その言葉に亜佑美がゆっくり顔を上げると朝陽は少しだけ視線を逸らしたまま、どこか言いにくそうに続けていく。

「別に覗くつもりじゃなかったんですけど、“合コン”って文字が見えちゃって……その時から、ちょっと気になってて」

 気になっていた、という言葉に亜佑美の胸が小さく跳ね、期待してしまいそうになる自分を慌てて抑え込む。

「……気になってた、って?」
「いや、その……」

 聞き返された朝陽は困ったように眉尻を下げて小さく笑う。

「木葉さん魅力的なので、合コンとか行くと大変ですよね」
「……え?」
「俺なんて全然話せなかったですけど、この前の合コン、先輩たち含めて男の人みんな木葉さんに積極的にアピールしてましたし」

 先日の二人の出逢いの場になった合コンを思い出しているのか朝陽は苦笑混じりに肩を竦める。

「だから……その、たまにはいいんじゃないでしょうか。合コンに参加しなくても」
「…………っ」

 亜佑美はその言葉を聞きながら膝の上でそっと指先を握りしめた。

(もしかして、私が友達の誘いを断ったことを気にしてるだけだと思ってる?)

 亜佑美としては少しでも断った意味を考えて欲しかったから話したつもりだけど、回りくどい言い方で朝陽には伝わらなかったのだと少し残念に思い、肩を落とす。

 勿論、意識して欲しいなら、気持ちを伝えるのが一番手っ取り早いということは亜佑美自身理解している。

 けれど、亜佑美は自分の気持ちに今日初めて気づいたばかり。

 しかも、これまでの亜佑美は収入、職業、将来性、見た目――そういう“スペック”を見て相手を選んできたし、それが当たり前だと思っていたから、こんなふうに一緒にいると落ち着くとか笑うと嬉しいとか少し優しくされただけで胸がいっぱいになるとか、そんな理由で誰かを好きになったことなんて一度もなかった。

 だからこそ、今すぐにこの気持ちを口にする勇気なんてない。

 でも、ほんの少しでいいから自分を意識してほしくて亜佑美は探るように視線を上げた。

「……藍島くんは、合コンばっかり行ってる女って、やっぱり嫌?」
「え?」

 突然の問いに戸惑う朝陽を前に、亜佑美は平静を装うように笑った。

「ほら、私、結構行ってるし。そういう女だとやっぱり男探しに必死って思われてるかなーって」

 すると朝陽は少し考えるように目を伏せてから首を横に振った。

「別に嫌とかは思わないですよ」
「……そう?」
「はい。合コンって出逢いの場だと思うので、悪いことではないと思います」

 そして、朝陽はふっと笑う。

「現に、合コンのお陰で木葉さんと知り合うことが出来ましたから!」

 それは屈託のない笑顔だった。

 打算も駆け引きもなく、ただ本心からそう言っているのが分かる。

 その眩しさに亜佑美の胸はまたどうしようもなく熱くなる。

(……本当にズルい。こんなの、好きになるに決まってるよ)

 亜佑美は気持ちを悟られないようにそっと視線を逸らしながら、じわじわと込み上げる想いを誤魔化すように、「そっか」と答えて小さく笑ったのだった。
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