恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
 すると、ふいに朝陽がはっとしたように目を見開いた。

「……って、そんなこと言ったら俺にも警戒しないとおかしいか……。あの、俺はその……」

 途端に歯切れ悪く視線を泳がせ始めた朝陽に亜佑美は思わず吹き出してしまう。

「ふふっ……」
「あ、あの……木葉、さん?」

 困ったように名前を呼ばれた亜佑美は肩を揺らしながら笑みを零した。

「ごめん。何だか必死になる藍島くんが可愛くて」
「なっ……っていうか、また可愛いって……」

 耳まで赤くしながら抗議する姿がますます可笑しくて、亜佑美はくすくすと笑う。

「ふふ、ごめん」

 そのお陰か先程まで張り詰めていた空気は、いつの間にかすっかり和らいでいた。

「それよりも、木葉さん、そろそろ帰りましょう」
「うん。でもその……送ってくれなくても、大丈夫だよ? まだそんなに遅くないし」
「駄目ですよ!」
「っ!」

 思った以上に強い声に亜佑美は目を丸くした。

「時間なんて関係ないです! 木葉さんのマンション周辺って住宅街で、この時間は人通りも疎らですよね?」
「まあ、うん……」
「それに、変質者や痴漢に注意っていう看板も立ってたし……」
「そんなの、大体どこにでもあるよ」
「だとしても!」

 ぐっと眉を寄せたまま朝陽は真剣な眼差しで亜佑美を見る。

「木葉さんみたいに魅力的な人が、夜十時過ぎに一人でいたら危険過ぎますって」
「……っ」

 不意打ちのような言葉に亜佑美の胸がどくりと跳ねた。

 そんなことをそんな真っ直ぐな顔で言われたら困ると、熱くなりそうな頬を誤魔化すように俯いた亜佑美を前に朝陽は不安げに表情を曇らせた。

「……それとも、送るの……迷惑ですか?」

 それはまるで捨てられた子犬みたいな目だった。

 その視線に胸がトクンと高鳴り、キュッと締め付けられる。

 心配してくれることが、どうしようもなく嬉しい。

「迷惑なんて、そんなことない…………その、心配してもらえて……嬉しい、です」

 亜佑美が小さくそう返すと朝陽は一瞬きょとんと目を瞬かせた後、

「なら良かったです!」

 そう言いながらホッとしたように柔らかく笑った。
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