恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
(誰だっけ……)

 表示された名前を見て、亜佑美はぼんやり瞬きをする。

(藍島 朝陽……?)

『あの……木葉さん? どうしましたか?』

 そこでようやく思い出した。

 合コンにいた、例の年下の男だと。

「……っ、あの……」

 本当は“間違えました”と言うつもりだった。

 けれど喉が乾いて上手く言葉にならない。

『大丈夫ですか?』

 再び掛けられた声が少しだけ強くなり、それは明らかに心配しているよう。

「……ねつ……出て……」
『熱があるんですか!?』
「……う、ん……」

 まともに返事もできない亜佑美に、朝陽は暫く黙った後で遠慮がちに口を開いた。

『あの……もし迷惑じゃなければ、今から伺ってもいいですか?』
「……え?」
『木葉さん、一人暮らしですよね? 地元も九州って言ってたし……俺で出来ることなら何でもするので』

 それは迷いのない声だった。

 弱っている今の亜佑美には、その言葉が妙に頼もしく聞こえる。

「……おねがい……」

 時間が経つにつれて辛くなった亜佑美は藁にもすがる思いで途切れ途切れに住所を伝えると、そのまま通話を切り、スマートフォンを取り落とすようにしてベッドへ沈み込む。

(藍島、朝陽……だっけ……)

 合コンで見た、頼りなさそうな姿をぼんやり思い出す。

 勢いで住所を教えてしまったことを少しだけ後悔したが、今はもう考える余裕も無く、そのまま意識は暗闇へ落ちていった。
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