恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
「じゃあ……」と言いながら亜佑美は少しだけ姿勢を正した。

 自分から言い出したはずなのに、いざ名前で呼ぶとなると急に緊張しているようだ。

「……呼んでみる?」
「は、はい……」

 その問い掛けに朝陽もどこかぎこちなく頷いた。

 暫く互いに視線を泳がせるその姿はまるで学生みたいだと亜佑美は思った。

(名前を呼ぶだけなのに……)

 それだけなのに、胸が妙に騒がしい。

「……朝陽くん」

 意を決して名前を呼んだ瞬間、亜佑美の心臓が跳ねた。

 そして、呼ばれた本人は耳まで真っ赤にしながら目を見開いて固まっていた。

「……っ」

 そんな反応をされると呼んだ側まで恥ずかしくなる。

「な、何……その反応……」
「いや……その……」

 朝陽は口元を押さえた。

「嬉しくて……」

 それはあまりにも正直な返答だった。

 そして、今度は朝陽が恐る恐る口を開く。

「それじゃあ……俺も……」といいながら一度深呼吸をした後、「……亜佑美さん」と呼んだ。

「…………っ」

 呼ばれた瞬間、さっき朝陽が浮かべていた表情の意味を理解した亜佑美。

(ただ名前を呼ばれただけなのに……どうしてこんなにドキドキするの?)

 ましてや亜佑美は恋愛経験だってそれなりにあるはずなのに、これまで名前を呼ばれただけでこんな反応になったことなんてある訳もなく戸惑いしか無い。

「す、すみません!」
「え、何で謝るの!?」
「いや、何か急に馴れ馴れしかったかなって……」
「いやいや、名前呼ばれるくらいでそんな風には思わないよ?」
「そ、そう、です……よね……」

 顔を見合せた二人は顔を赤くしながら言い合う。

 こんな状況がどこか甘酸っぱくて、少しむず痒くて、それでも嫌ではなくて。

 何度か言い合いを続けていた二人は気付けば緊張から解放されたのか、どこか可笑しくなって自然と笑いに変わっていた。
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