恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
 暫くして二人が落ち着いた頃、朝陽がぽつりと口を開いた。

「……実は」
「ん?」
「ちょっと羨ましかったんです」

 ふいの言葉に亜佑美は首を傾げる。

「羨ましい?」
「はい」

 朝陽はカップを両手で包み込みながら、少し視線を落とした。

「合コンに参加した先輩たちは亜佑美さんのこと普通に名前で呼んでたし……今日、亜佑美さんに言い寄ってた人、いたじゃないですか」
「……ああ」
「あの人も当たり前みたいに亜佑美さんって呼んでて」

 それはどこか拗ねたような声だった。

「……羨ましいなって。少し狡いなって思ってました」

 その言葉に亜佑美は思わず息を呑む。

 まさかそんなことを考えていたとは思わなかったし、本人は気付いていないのだろうが、それはどう聞いても嫉妬にしか聞こえない。

「……狡いって」

 胸の奥がじんわりと熱くなるのと同時に顔が赤くなるのを誤魔化すように、亜佑美はそっと視線を逸らした。

 そんな様子に気付いたのか朝陽は不思議そうに首を傾げる。

「俺、変なこと言いました?」
「ううん」

 むしろ嬉しかったし、今すぐにでも気持ちを伝えたくなるくらいに気持ちは昂っていく。

 好きだと、貴方が特別なんだと。

 けれど、その言葉は喉の奥で留める。

 朝陽は優しくて真面目だから亜佑美が告白すれば、きっと真剣に向き合ってくれるだろう。

 だからこそ、今はまだ言えなかった。

 朝陽自身、自分の気持ちを整理しきれていないように見えるし、自分へ向けられている好意があったとしても、朝陽がそれを恋愛感情だと自覚しているかは分からない。

 それに、もし断られれば今の関係は壊れてしまうかもしれないし、仮に想いが通じたとしても、その先で何かが噛み合わなくなって今みたいに隣で笑い合えなくなるのは怖いと亜佑美は思ってしまう。

(今は――ただ、傍にいたい)

 同じ時間を過ごして、他愛ない話をして、こうして笑い合っていたい。

 亜佑美にとってはそれが何より大切だから、今はまだ気持ちを伝えることはしなかった。
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