恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
 二人は映画を観終えると、そのまま朝陽の自宅へ向かう為駅へ向かい電車に乗る。

 土曜日の午後ということもあり、電車の車内はかなり混み合っている。

 朝陽は周囲を見渡して車両の端に二人分のスペースを見つけると、自然な動作で亜佑美の手を取った。

「こっちです」

 そう言って人混みを抜けて壁際へと誘導すると亜佑美を壁側に立たせて自身はその前に立った。

 混雑した車内で他の乗客とぶつからないようにするための配慮だと分かっていても、すぐ目の前に朝陽がいる状況に亜佑美の心臓は落ち着かない。

(近い……)

 少し顔を上げれば視線がぶつかってしまうほどの距離で、電車が揺れるたびに意識してしまい亜佑美は速くなる鼓動を誤魔化すように視線を逸らした。

 そのまま数駅を過ぎて三駅目で下車し、改札を抜けると二人は並んで住宅街の中を歩いていく。

「この辺は来たことないけど、結構住みやすそうだね」

 亜佑美が周囲を見回しながら言うと朝陽は頷いた。

「はい。人通りもそれなりにありますし、遅くまで営業しているお店も多いので比較的治安も良いですよ」

 そう答えた後、少し先を指差す。

「あ、あと少しで俺の住んでいるアパートです」

 その時だった。

「――亜佑美?」

 背後から名前を呼ばれて二人が反射的に振り返ると、そこに立っていたのは背の高い男。

 明るく染めた髪に耳元に光る複数のピアス。

 ラフな服装と軽薄そうな笑みが、どこか遊び慣れた印象を与えている。

 そんな男を見た亜佑美は驚いたように目を見開き、

「……陸人(りくと)

 思わず零れた名前に陸人と呼ばれた男は口元を吊り上げる。

「やっぱ亜佑美じゃん。久しぶりだな」

 親しげな口調とは裏腹にその笑みにはどこか引っかかるものがあって、隣で様子を見ていた朝陽は小さく首を傾げる。

「……お知り合いですか?」

 そう問い掛けるが、亜佑美が答えるより早く陸人の視線が朝陽へ向けられた。

「へぇ……」

 それは値踏みするような眼差しで、再び亜佑美へと視線を戻す。

「誰? コイツ」

 陸人は面白そうに目を細めた。

「……もしかして、新しい男?」

 その瞬間、亜佑美の表情が僅かに強張ると、朝陽はその小さな変化を見逃さなかった。
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