恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
 その様子を見た瞬間、朝陽ははっきりと理解した。

 亜佑美はこの男と話したくないのだと。

「亜佑美さん、行きましょう」

 朝陽は自然に亜佑美の手を取ってそのまま歩き出すと、男の横を通り過ぎる際、軽く会釈だけを残した。

 突然手を引かれた亜佑美は目を瞬かせたが、抵抗することなくその後に続く。

「お、おい」

 陸人が呼び止めるも二人の足が止まることはなかった。

「亜佑美!」

 少し大きくなった声に亜佑美の肩がぴくりと震える。

「久しぶりに連絡してもいい?」

 陸人は笑みを浮かべながら言葉を続けた。

「飲みにでも行こうぜ」

 その言葉に朝陽が足を止めると、亜佑美も止まる。

 そしてゆっくりと振り返った朝陽は陸人を見据え、

「申し訳ないですけど、亜佑美さんには連絡しないでください」

 ハッキリと連絡しないよう口にすると陸人の笑みが引き攣る。

 そんな中朝陽は真っ直ぐに視線を向けたまま続けていく。

「それと、飲みにも行かないので」

 そこにいつもの柔らかな雰囲気はどこにもない。

 鋭く細められた瞳に、相手を牽制するような冷ややかな眼差し。

 そんな朝陽を前に亜佑美は思わず息を呑んだ。

 普段は穏やかで人当たりが良くて、誰に対しても丁寧な人なのに。

 今の朝陽からは一切の譲歩を許さない強い意志が感じられる。

 陸人もそれを察したのか言い返して来ない。

 その沈黙の中で、亜佑美は意を決したように口を開いた。

「……飲みに行くつもりも無いし、今更関わるつもり無いから……連絡してこないで……さよなら」

 そしてそれだけ言うと亜佑美は朝陽の手を握り返し、二人はそのまま踵を返すと再び歩き出した。

 背後から声が掛かることはなかったけれど、遠ざかる足音の向こうで、「……チッ」という小さな舌打ちだけが聞こえてきた。

 残された陸人は苛立ちを隠そうともせず、苦々しい表情を浮かべ、思い通りにならなかったことへの不満を滲ませながら去っていく二人の背中を睨みつけていた。
< 46 / 90 >

この作品をシェア

pagetop