恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
 その名前に覚えがあり、記憶を遡っていくと、先日亜佑美が参加した合コンの後で言い寄っていた男――力弥を思い出した。

 何度もスマートフォンが震える中、亜佑美は画面を見つめたまま応答しない。

 そのうち着信音が止まり静寂が戻る。

「……出ないんですか?」
「うん」

 けれどそれから数分も経たないうちに再びスマートフォンが震え、同じ相手からの着信が来る。

「もしかして……頻繁に掛かってきたりするんですか?」
「うーん……まあ、一日に数回は」
「そんなに……」
「電話とかメッセージを送ってくるの……出てないし、返してないんだけどね」

 少し困ったような笑顔を浮かべる亜佑美に疲れが滲んでいるのを朝陽は見逃さなかった。

「俺が出て、止めるように言いましょうか?」

 それは思わず口から出た提案だったけれど、亜佑美は首を横に振る。

「うーん……気持ちは嬉しいんだけど、きっと納得しないと思うから……」
「どうしてですか?」
「この前、朝陽くんが間に入って直接言ってくれた後にもメッセージ来てて、《彼氏じゃない男に言われても聞けないから》って言われちゃったから……」
「……」

 亜佑美の言葉に朝陽は何も言えなかった。

 そして同時に胸の奥で小さな苛立ちが膨らむ。

 確かに自分は彼氏ではないから相手の言い分そのものは理解できる。

 けれど――亜佑美本人が迷惑しているのに自分の都合を押し付け続けるのは違うはずだ。

 そしてこの話を聞いた朝陽は、友人という立場では出来ることに限界があることや、守りたいと思っても踏み込めない領域があるという事実を改めて突き付けられた気がした。

 結局、その後電話が掛かってくることはなかったけれど、一度生まれた微妙な空気は簡単には消えない。

「……あ、そうだ。このカフェのパンケーキ凄いんだよ!」

 先に切り替えたのは亜佑美で、スマートフォンを差し出しながら努めて明るい声を出す。

「あ、本当だ。すごいですね」
「ね? これ絶対美味しいよね」

 朝陽もその意図を察して話題に乗ると、少しずつ気まずさが薄れていった。
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