恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
「ごめんね、結構時間かかっちゃって……」
「い、いえ! 全然大丈夫です!」

 リビングに戻った亜佑美はソファーの端で背筋を伸ばして座る朝陽の姿を見て思わず小さく笑った。

「テレビつけてても良かったのに」
「え? あ、いや……特に観たい番組もなかったですし」
「そう? あ、それより飲み物も出してなかったよね。ごめんね」
「いえ!」
「何飲む? お酒もあるけど……」
「み、ミネラルウォーターとかありますか?」
「あるけど、水でいいの?」
「はい」
「分かった」

 亜佑美は冷蔵庫からミネラルウォーターを二本取り出して朝陽の隣へ腰を下ろす。

「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」

 ペットボトルを受け取る朝陽の手は少しだけ緊張しているように見えた。

 亜佑美が先に蓋を開けて一口飲むと、朝陽も続いて水を口にする。

 喉が渇いていたのか勢いよく半分程飲み干していた。

 やがて二人はペットボトルをテーブルへ置くと、静かな部屋にどこか落ち着かない沈黙が流れた。

 朝陽は何か話そうと何度も言葉を探しているようだったが上手く口に出来ないようで、そんな彼を見て亜佑美がそっと口を開いた。

「……緊張してるよね?」
「……っ、はい。すみません……」
「謝らなくていいよ。怒ってるわけじゃないんだから」
「でも、その……こういう時って、男の方からちゃんとしなきゃいけない気がして……なのに何も出来なくて……」

 しゅんと肩を落とす朝陽に亜佑美は優しく微笑んだ。

「朝陽くんは朝陽くんなんだから、そんなこと気にしなくていいよ」
「…………」
「私は誰かと比べたりしない。だって、私が見てるのは朝陽くんだけだもん」
「亜佑美さん……」

 真っ直ぐ向けられる想いに、朝陽の胸が熱くなる。

 そして亜佑美は少しだけ頬を赤く染めながら、小さな声で言った。

「ねえ、朝陽くん」
「はい……」
「キス、しよ?」
「……っ」

 その言葉に驚いたように目を見開く朝陽だったけれど、その表情はすぐに緩んだ。

「……好きだよ、朝陽くん」

 亜佑美その言葉が後押ししたのかもしれない。

 朝陽は勇気を振り絞るように手を伸ばすと、そっと亜佑美の頬に触れた。

 柔らかな温もりに触れながら、互いの距離が少しずつ縮まっていく。

 緊張はするし、不安もある。

 けれど、今はそんなことを感じないくらい、相手だけを想い、見つめていく。

「朝陽くん……」
「亜佑美さん」

 見つめ合ったまま、二人はゆっくりと顔を近づけていき、どちらからともなくそっと唇を重ねた。

 触れるだけの短いキスだったけれど、それだけで十分幸せな気持ちに包まれ、触れ合った唇の温かさに二人は照れくさそうに微笑み合った。
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