選べなかった恋の続きを、君と紡いで
「知ってたけど、汐月くんって……優しすぎる」
「え、何が」
「え、無意識? 日本酒好きなことを覚えててくれただけでも嬉しいのに、こうやって合うお店に連れて来てくれるなんて気遣いのプロすぎる」
しみじみと言いながらお酒をあおる。
けれど、汐月くんはなぜかしっくりきていない顔で軽く首を傾げた。
「でも、七瀬さんも俺の好きな酒覚えててくれてる気がするけど」
「ワイン」
「ほら。じゃあ、一緒だ」
それをさりげない気遣いに昇華できているところが汐月くんだと思った。心の奥底に当然のように優しさが根付いている。もちろん昔から優しかったけれど、やっぱり大人になっている気がした。でも、もう寂しく思うことではなかった。
なんだか安心感に包まれてしまって、ここ数日引きずっていた心のモヤがすうっと晴れていく。気づいた時には口を開いていた。
「今日ね」
透き通ったイカのお刺身にワサビを乗せていた汐月くんが顔を上げる。
「実は仕事が行き詰まっちゃってて、ちょっとだけなんだけど落ち込んじゃってたんだ。でもね、今すごく元気になった。おいしい料理もだし、汐月くんと久しぶりにこうして話せてすごく嬉しいよ」
我ながら単純すぎると思ったけれど、汐月くんは一切茶化すことはなかった。
「よかった」
と、ただそれだけ言って、かすかに微笑んでくれる。あまり重い空気にしたくなかったから、深く聞かれなかったことに胸を撫で下ろした。
また和やかな気持ちになりながら、炙りサーモンを塩につけて口に運ぶ。とろっとした触感と香ばしさが一気に口の中に広がってつい口元が緩んだ。じっくりと味わった後も幸せな余韻が引かなくて、手を頬に当てて噛み締めていると、汐月くんがふっと笑みを深めた。
「こういうところ変わらないな」
「え?」
「前向きなところ。素敵だと思う」
――七瀬さんの本を大事にする姿勢、素敵だと思う。
目の前で日本酒を傾ける汐月くんの姿が、昔と重なった。胸の中にじわじわとまた温かい思いが広がっていく。
もう少し頑張ろう。弱音で埋め尽くされていた心に、明るい光が射し込んだ気持ちだった。
「え、何が」
「え、無意識? 日本酒好きなことを覚えててくれただけでも嬉しいのに、こうやって合うお店に連れて来てくれるなんて気遣いのプロすぎる」
しみじみと言いながらお酒をあおる。
けれど、汐月くんはなぜかしっくりきていない顔で軽く首を傾げた。
「でも、七瀬さんも俺の好きな酒覚えててくれてる気がするけど」
「ワイン」
「ほら。じゃあ、一緒だ」
それをさりげない気遣いに昇華できているところが汐月くんだと思った。心の奥底に当然のように優しさが根付いている。もちろん昔から優しかったけれど、やっぱり大人になっている気がした。でも、もう寂しく思うことではなかった。
なんだか安心感に包まれてしまって、ここ数日引きずっていた心のモヤがすうっと晴れていく。気づいた時には口を開いていた。
「今日ね」
透き通ったイカのお刺身にワサビを乗せていた汐月くんが顔を上げる。
「実は仕事が行き詰まっちゃってて、ちょっとだけなんだけど落ち込んじゃってたんだ。でもね、今すごく元気になった。おいしい料理もだし、汐月くんと久しぶりにこうして話せてすごく嬉しいよ」
我ながら単純すぎると思ったけれど、汐月くんは一切茶化すことはなかった。
「よかった」
と、ただそれだけ言って、かすかに微笑んでくれる。あまり重い空気にしたくなかったから、深く聞かれなかったことに胸を撫で下ろした。
また和やかな気持ちになりながら、炙りサーモンを塩につけて口に運ぶ。とろっとした触感と香ばしさが一気に口の中に広がってつい口元が緩んだ。じっくりと味わった後も幸せな余韻が引かなくて、手を頬に当てて噛み締めていると、汐月くんがふっと笑みを深めた。
「こういうところ変わらないな」
「え?」
「前向きなところ。素敵だと思う」
――七瀬さんの本を大事にする姿勢、素敵だと思う。
目の前で日本酒を傾ける汐月くんの姿が、昔と重なった。胸の中にじわじわとまた温かい思いが広がっていく。
もう少し頑張ろう。弱音で埋め尽くされていた心に、明るい光が射し込んだ気持ちだった。