選べなかった恋の続きを、君と紡いで
 あの日以来、汐月くんとは時々一緒に飲みに行くようになった。気になっているお店やどちらかがおいしいと聞いたお店を開拓することが多く、汐月くんは営業職ということもあってか飲食店に詳しかった。

 汐月くんといると自然と心が弾んで、同じくらい気持ちが落ち着いた。もっと話したい。いろんなところに行きたい。会うたび、そんな感情が膨らんでいった。

 汐月くんも同じふうに思っていてくれたらいいなあ、と心の片隅で思う。

 今夜は中華料理を堪能して、味の感想を言い合いながら街へと出た。

「麻婆豆腐の山椒の効き具合、完璧だった」
「わかる。辛いんだけど、奥行きのある深みというか」
「汐月くん、言語化うまい! 次、中華料理屋さん舞台の話もいいなぁ」
「どんな感じ?」
「んー……ウエイトレスの主人公が裏で何でも屋をしてるんだけどね」

 並んで歩きながら他愛のない話をしていると、ふいに肩を抱き寄せられた。森林のような優しい香りがしてすぐ、ふわっと強い風とともにすぐ脇を自転車が走り抜けていく。

「自転車来てたから」
「ありがとう……」

 手が離されて、またかすかな距離ができる。汐月くんの香りも遠ざかった。

「危ないよな。というか、ここ歩道なのに」

 困ったように眉を下げる汐月くんの横顔に、私は「そうだね」と返しながらも上の空だった。びっくりした。近かった……!

 こっそり胸を押さえながら、再び歩き出した汐月くんに続くように歩く。

 どうしてこんなにドキドキしているのだろう。
 
 たしかにしばらく彼氏はいないし、ここ数年は仕事一色だった。でも、こんなに過剰反応してしまうほど耐性がないわけでもないはずなのに。既に体温は遠ざかっているのに、汐月くんに触れられたところが熱く脈打つ感覚が消えない。

 アルコールのせいなのかわからない体の熱さとふわふわした感覚に、自分でも不思議になってしまう。

「あ」

 汐月くんが少し先を見て、小さな声を上げる。つられるように並木道の先に視線を送ると、イルミネーションの準備がおこなわれていた。

「もうこんな時期か」
「うん。あっという間に冬だね」

 十一月の木々に残った葉は、まだ紅葉前で青々しい。けれど初夏のように瑞々しい感じではなく、どことなく寂しい感じがするのは季節に引っ張られているのだろうか。

 ここから一か月で一気に冬の気配が濃くなり、昼間も寒くなっていくのかと思うと本当に一年はあっという間だ。汐月くんと再会してからもう二か月近くが経とうとしている。

「年末は忙しいよね?」
「年末進行があるからな。でも、七瀬さんもじゃない?」
「うん、締め切りが早まる。もしくは年明けにすぐ来る」
「だよな」

 出版社はいつもより校了日が早まるし、そうなると原稿を書く側の私も、自然と締め切りが厳しくなってしまうのだ。

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