選べなかった恋の続きを、君と紡いで
子どもの頃、仕事で忙しかった両親は、なかなか会社を休めなかった。保育園の頃は仕事に穴を開けてでも傍にいようとしてくれた。私を心配して祖母に連絡してくれたり、どちらかが昼休みに様子を見に来てくれたりしたことももちろんあったけれど、成長するにつれて私から遠慮するようになった。会社に休む連絡をする母の申し訳なさそうな顔。営業の外回りの際に家に立ち寄ってくれた父の汗ばんだ額。それを見ることが心苦しくて、「ひとりで大丈夫だよ」と先に断るようになっていったのだ。
それでも目が覚めた時、熱で体中が熱いのに、家ががらんとしている心細さ。咳が止まらなくて苦しい時、このまま死んでしまうんじゃないかという健康な時には感じることのない大げさな不安。それらが一気に押し寄せて、布団の中で目を潤ませた日もあった。
中学、高校と年を重ねていくうちに寂しさや体調不良の治し方、過ごし方を知り慣れてはきたけれど、大人になった今でもその時の光景がこびりついた脳が勝手に孤独と心もとない気持ちを抱いてしまう。
だから心細くて、ちょっとしたことにも不安になってしまうのだ。
「……大丈夫、大丈夫。寝れてば治るし!」
気持ちを奮い立たせるように、自分に言い聞かせる。
あまり食欲がなかったので買い置きしていたパウチのゼリー飲料を食べてから、市販薬を飲んだ。ベッドに戻ったところで、枕元に置いていたスマートフォンが音を立ててびくりとした。見れば、汐月くんの名前が表示されている。
数分前にメッセージで話したところなのに、出ないのは不自然かもしれない。でも、この短時間で寝ていたと言い訳できるかな。でもでも、余計な心配をかけてしまう……? 散々迷った末に、ためらいながらも通話をタップする。
「もしもし……」
『あ、七瀬さん』
控えめに電話に出ると、ほっとしたような響きをまとった声が鼓膜を揺らした。
『体調、大丈夫?』
案ずるような声色は、私の体調を慮っているのか、普段以上に落ち着いたトーンだった。やっぱり心配して電話をかけてくれたんだ。そう思った瞬間、安心して胸が熱くなった。