選べなかった恋の続きを、君と紡いで
「うん、大丈夫。ドタキャンしてごめんね」
『そんなの気にしなくていい。熱は?』
「38℃くらいかな」
『しっかり熱出てるな。……迷惑じゃなかったら見舞いに行ってもいいか?』
「えっ」

 思いがけない提案に、驚きの声が漏れる。ほんの一瞬喜びと安堵を抱いてしまった後、すぐに思い直した。さすがに申し訳なさすぎる。

「いやいや、大丈夫だよ。寝てたら治るから」

 努めて明るく答えたつもりだったけれど、汐月くんは通話口で黙り込んでしまった。一秒、二秒……と沈黙が流れて軽く焦る。

「あ、カフェのキャンセル料は私が払うから……!」
『それは大丈夫だから気にしなくていい。それより、本当に?』
「え……」

 返ってきたのは、低く、同じくらい真剣な声だった。

『本気で七瀬さんが大丈夫だと思ってるならおせっかいだと思ってくれていい。本気で迷惑だったら断ってくれてかまわない。でも、もし今食べ物がなくて困ってるとか不安とか、何かあるなら遠慮しないでほしい。……俺の気のせいだったら申し訳ないけど、なんだか大丈夫だとは思えなくて』

 私の胸の奥にある想いを探るような――柔らかく引き出すような物言い。胸がぐっと詰まってしまって、すぐに返事ができなかった。

 本気で心配してくれている。私が遠慮していることも全部見透かしている。決して押し付けない、けれど優しい気遣いに唇をぎゅっと噛んだ。

「ちょっとだけ……なんだけど」
「うん」
 
 こぼれた言葉に、穏やかな相槌が返ってくる。

「心細い……かも」
『わかった。今から行くよ』
「……ホントにいいの?」
『ダメだったら提案しない。少しだけ待ってて。住所と、あとは薬局に寄るからほしいものとかメッセージで送ってくれたら助かる』
「わかった。ありがとう……」
『じゃあ、また後で。しっかり寝てて』

 通話を終える直前まで、汐月くんの声色はずっと柔らかかった。スマートフォンを握り締めた手が、発熱のせいだけではない熱さを持っている。

 部屋、掃除しておいてよかった……。積み上がった本だけ端に寄せ、風邪をうつしてしまわないように部屋の窓を開けてマスクをつけた。まだ薬を飲んだ直後だからか、少し動いただけでふらついたので大人しくベッドにもぐる。

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